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「それで何かご用?」
出た言葉が素っ気ないを通り越して自分でも冷たく聞こえた。そんなつもりは無かったのだけど和馬にも冷たく聞こえてしまっただろう。
「用がないと藤花に会いに来てはいけないの?」
ほうら。しゅんとして少し悲しそうな顔をしている。
「そんな事はないけど……」
そんな事はないけど、そんな事言わないでよ。それだと用がなくても私に会いたいと言う意味に聞こえてしまう。
違う、違う。和馬はそんなこと思っていない。和馬にとって私は疎ましい存在なのだから。そう、殺したいと思うほどに。
だから気を遣って私にそんな事を言わないでもいいのだ。
「もしかして忙しかった? 藤花は何をしていたの?」
「お裁縫の課題よ。私あまり得意ではないから」
「頑張ってるんだね。だけどたまにはウチにもおいでよ。今日もてっきり来るのだと思っていたのに、来なかったから母が会いたがっていたよ。勿論僕も……。いや、僕が一番藤花に会いたかった」
「そう……」
会いたいなんて嘘でしょう?
それに私は和馬に会いたくなかった。
「…………」
その証拠に会話が続かない。
けれどその沈黙を破るように和馬が私に向かって微笑んだ。それだけで空気が穏やかに変化する。まるで幼い頃のように。もしかして少し仲良く遊び過ぎたのかしら?
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