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「僕が必要なくなった?」
そうとるのか——。
僕の顔色を見ながら九条さんはそっと肩に腕を回した。
「本当のことを言ってくれ。君にはやっぱり僕より征司くんなのか?」
まさか——。
恩着せがましくも僕を支配し
自分が思い描く通りの世界に僕を引きずり込む男だぞ。
「何とか言ってくれ——おかしくなりそうだ」
愛のためだけの温かな抱擁。
穢れも罪もないただ真摯な眼差し。
「ごめんなさい……でもね僕……あのね……」
言葉を失っていた僕がようやく口を開くと。
彼は全身全霊を傾けて聴いてくれるんだ。
「いいよ。何を言ってもいい。僕を傷つけることを怖がらなくていい」
「九条さん……」
「ただ拒むまないで。頼むから僕と向き合うことを拒まないでくれ」
いつだってそうさ。
彼はこうして凍てつくような僕の心の虚しさを
諦め交じりの罪深さを許し受け止めてくれたから——。
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