51人が本棚に入れています
本棚に追加
/30ページ
「分かった——君がそこまで言うならもう反対はしないよ」
後ろから駆けてきた。
諦めを孕んだ声が僕の腕を掴んだ。
「九条さん……?」
「だからこのまま、僕らが気まずくなるなんて間違ってる」
まさか彼が僕を許すなんて——。
その証拠を見せるように後ずさる僕を追って
彼は腰を抱き寄せながら階段の途中で口づける。
「君の気持ちは痛いほど分かってるさ」
気持ちのこもったキスの後。
伏せた睫毛が吐息交じり囁く。
「このままじゃどうせ眠れやしない。だろ?」
視線を上げると
体の芯まで熱くする眼差しで僕を射抜いて——。
「せめて僕の部屋で一杯飲んで——君を腕に抱いて眠らせてくれよ」
九条さんは強引な手つきで僕を引き寄せる。
「それぐらいの我儘聞いてくれてもいいだろう?」
この期に及んで僕が断れるはずなかった。
「分かった」
コクンと頷く。
僕の下唇を親指でそっとなぞって。
「君にとって悪いようにはしないさ——約束する」
九条さんはいつもと同じ誠実な眼差しで言った。
誠実すぎるほど澄んだ眼差しで――。
最初のコメントを投稿しよう!