春、君と出会った

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 廊下側から二列目、一番後ろの席。  私の名前シールが貼られている机の中には真新しい教科書。  静かに深呼吸。  誰にも緊張を悟られないように教科書を1冊手に取りパラパラと捲ってみたりしてポーカーフェイス。  冷静に装ってるけどね、心の中はお通夜状態。  ……、何故、私は一人なんだろう?  確かにうちの中学から来た生徒は数少なかった。  でも他のクラスには、三人、四人いたよね?  均等分けしなかったのは何で?! 何で私だけ、一人きり? 周りは見知らぬ人ばかりなの?!  貧乏くじを引いたような気がして折角の入学式だというのに気が重くなってくる。  見渡すと同じ中学校同士の子達だろうか。既に数人で固まっていて、出遅れた感満載、どうしよう。  せめて隣の人とでも仲良くなろうか、と思うのにまだ来てないみたいだし。  隣の席の主の名前は『加瀬 拓海』、たくみかな?  その名前に勝手に親近感を感じてしまうのは……。 「オレの席、ここ?」  突然背後から低い声が聞こえて、その声の主は隣の席にストンと座った。  この人が加瀬拓海くん?  色素の薄い髪色に一瞬『怖い人?!』と、ひるみかけたけど。  彼は私の視線を感じたのかコチラをチラッと見て。 「同じ」  ニッと笑って私の名前シールを指さした。 「海?」  嬉しくなって確認すると、頷いてふにゃりと目を細め、人懐こい笑顔を覗かせた。 「片山みおん?」 「ううん、みお」  『片山海音』  お互いの名前に海の字が入っていること。  その親近感に同じように気づいてくれたことが何だかとても嬉しくなる。  加瀬くんが私の名前の読み方を聞いて、へえ、と微笑んだ、その時だった。
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