アイスが溶けないうちに

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静まり返った夜のこと。 ざわざわと音を立てて、雑木林が怪しげに揺らめいていた。 「あの……」 不意に響いた女性の声。それは、俯いている男性に向けられていた。 その遠慮がちな様子から、二人は初対面だと察しがつく。 満足に街灯もない、光といえば月明りだけだというのに、それすら雲に隠れて心もとない小径で、女性は窺うように小首を傾げて目を凝らし、男性に視線を注いだ。 「失礼ですが、あなた、透けてませんか?」 ざあっといっそう風が強くなり、身を寄せ合う木々たちを騒がした。 それらがもとの落ち着きを取り戻した頃、ようやく男性は俯いていた顔をゆっくりと上げた。 「俺、おばけなんだ」
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