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布団の向こう
ちゅんちゅんと小鳥のさえずる音で目を覚ます。
重い瞼を開けるとカーテンの隙間から日の光が差し込んでいるのが見えた。
朝だ。頭ではわかっているけれど、重い体はちっとも動く気配がない。
(おきる。おきるよ。いまおきる。)
頭の中では繰り返しそんな言葉が言い訳のように回るが、私の意思とは裏腹に体はどんどん布団の中に沈んでいく。ぐんぐんと重力に従い体が下へ下へと落ちていく。
とぷんっ。
水の中に何かを投げ入れたような音がして、体が布団をすり抜けた。
「・・え?」
ふわりと急に支えのなくなった体に脳が急激に危険信号を体へと発信する。今までうんともスントも反応を見せなかった体がバタバタと宙をかく。
「待って待って!うそでしょ!どゆこと!!」
必死になって体の支えを取ろうとしているうちにも、まわりの景色がすごい勢いで進んでいく。
朝が来て夜が来て、また朝が来て夜が来る。繰り返し繰り返し進んでいく中、ふわりと浮かんでいる私の体だけが不自然にその場に留まっていた。
不安定な状態が不安で怖くてパニック状態の私はがむしゃらに手足を伸ばした。体がどこにも触れていない状態がこんなに恐怖を感じるなんて知りたくもなかった。文字通り死に物狂いで伸ばした手の先に何かが触れた。その瞬間、何かがパチンとはじける音がして体が地面にたたきつけられる。
「つっ!!」
唐突にやってきた衝撃に息が詰まる。とたんに感じる体の重みに涙が出そうになった。
痛む体を何とか起こして自分の手が触れているものを見つめる。
床だ。自分の手足は間違いなく地面についている。その事実に目の前が急に滲んでぽたぽたと地面に模様を作った。
「はは。・・床だ。床がある。」
湧き上がる安心感に押されるように両目からはいつの間にか滝のように涙が流れていた。
その涙をぐしぐしと袖で拭ってふと気が付く。やけに回りが明るく、ざわざわと人の気配がする。
やっと落ち着いてきた思考で私は顔を上げた。
「・・・え。」
煌々と照らされる室内。目の前には透明なガラス。そしてそのガラスの向こう側にあるたくさんの目。
「え?え?なにこれ?」
私が混乱する中で立ち上がるとガラスの向こう側がにわかに騒がしくなった。興味深そうに、私に向けられるたくさんの目 目 目。
ぐるりと視線を巡らせてみても景色は変わらない。
「――っっ!」
プツンと音がして、世界は真っ暗になった。
end
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