第二章

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 一度だけ関係を持ちたかったならほかの男を選べばよかったのに。どうしてわざわざ後々面倒なことになりそうな史哉を選んだのか。  それを聞いたところで彼女が素直に答えるとは思えなかったが、史哉の直観が告げていた。静香は自分に対して思慕を抱いているのだと。  ただ、同時に恋人関係になるつもりではないという意思も窺えた。 (さて……どうしたもんか……)  静香から飛び込んできたのだ。それをみすみす手放すつもりはない。  滅多なことでは執着しない史哉だが、一度何かにはまると飽きることはない。Yシャツやスーツもずっと同じブランドと決めているし、時計や鞄もそうだ。  願掛けというわけでもないのに、事務用品まで同じ物を使い続けているせいで、受験の時なんかは周りにからかわれもしたものだ。  今日が休みでよかった。よほど深く眠っていたのか、すでに朝の九時を過ぎていた。仕事ならば完全に遅刻だ。  史哉がチェックアウトを申し出ると、すでに部屋の精算は済まされていて、ますます困惑が深まるばかりだ。
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