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プロローグ
もう、限界だった。これ以上、走れそうにない。
それでなくとも、この足元もおぼつかぬ山道をひたすら走っていたのだ。しかも、靴も履かずに。
もはや、彼女の足はぼろぼろ。全身にかかった負担も絶頂へと達し、先へと急ごうとする気力を殺がれてしまう。
でも、だからって、ここでジッとしているわけには。
背後には、男達の声がすぐ側まで迫ってきている。このまま留まっていては、捕まるのも時間の問題。
かと言って、助けを求めようにも、ここは山の中。それも夜ときて、辺りは黒一色の闇に包まれている。
唯一、この空間を照らす光りと言えば、上空に顔を覗かす微かな月明かりのみ。
それじゃあ、ぼんやりと無数に立ち並ぶ木立ちが映えるだけで、何も見えぬに等しい。
こんな闇と静寂に支配された場所、とても人が足を運ぶとは思えない。
むしろ、いたらいたで、それは逆に怪しく思えるだろう。
いずれにせよ、今自分にある選択肢は一つしかない。
痛む足を堪え、彼女は一本の木立に凭れかかりながら立ち上がった。
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