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「はいOK!お疲れ様でしたー!」
そうこうしている内に、撮影終了の掛け声が響いた。スタッフに頭を下げながら、志摩と那月がこちらへ向かってくる。
「梨沙さーん、俺らどうだった?」
「え、あ、うん良かったよ志摩!那月も、お疲れ様。」
「お疲れ。マネージャーなんか疲れてない?……あ、これ志摩のだ。まあいっか。」
那月が掴んだミネラルウォーターが志摩の飲みかけだったらしいが、すぐ隣に自分のが置いてあるにも関わらず、那月はそのままペットボトルの中身を飲み干した。それを見た志摩は全く気にする様子もなく、残された那月のペットボトルを手に取る。その蓋を開けようとして、相沢さんと目があった。
「初めまして、っすよね。梨沙さん、こちらの方は?」
「女性ファッション誌『Peechi!』の編集者、相沢さんです。」
「志摩君、那月君、今日はすごく良かったよ。是非今度うちの雑誌で特集組ませてね。」
「うおっ、マジっすか。俺たちもうすぐ2周年なんで、出来ればページ多めで、派手に飾って欲しいな。」
「もちろん。」
「ありがとうございます!相沢…香苗さん。」
「…!」
名札の名前を呼んだ志摩が嬉しそうに笑うと、相沢さんがぎゅっと目を瞑った。―――あー分かりますよ相沢さん、志摩は見た目がデカいしゴツいから一見怖いけど、笑うと愛嬌があって可愛いのよね。私も初対面でやられましたとも。いつの間にか業界の女性とも仲よくなってるし、たぶんアイドルじゃなかったらホストやってると思う。無限に貢がせてると思う。
そんな相方に向かって、鼻を鳴らしたのは那月だ。
「お前な、馴れ馴れしく呼ぶのやめろ。失礼だろ。」
「なに?那月も呼んであげようか、なっちゃん。」
「誰がなっちゃんだ!……すみません、こいつは全ページモザイクかけていいんで。」
「酷いな、俺がわいせつ物みたいじゃん。」
「大体同じだろ。」
「あはは、ちゃんと2人とも格好よく載せるからね。読者だって楽しみにしてるし。……それにしても那月君、近くで見ると相当まつげ長いわね。目はカラコン入れてる?」
「いや、元からこの色です。」
「ひえー、羨ましい。」
薄茶色の猫目だけじゃなく、肌も色白だし、癖のない髪は染めずともハニーブラウン。女子が取り替えたいと望む顔面の持ち主だが、身長は175cmあるし、本人も筋トレなど積極的に取り組んでいるので、身体つきも割と良い方だ。それでも全体的に柔らかい印象を持たせるのは、彼の中世的な顔立ちと清涼なオーラがあるからだろう。
―――ふと、私のスマホが震えだした。タイムスケジュールに合わせてセットしたアラームが鳴っている。
「二人とも、次の移動があるからそろそろ着替えてきて。」
「了解。行くぞ志摩。」
「はいはいっと。じゃあ、香苗さんまた今度。」
歩きながら相沢さんに手を振る志摩の横腹を那月がどつく。志摩は「痛い!」と大げさに叫びながら、那月の肩を組んで自分に引き寄せると、どこのウィンターカップルだよと言わんばかりの密着度で控室に戻っていった。
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