赤い砂と銀の糸

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 熱く照り付ける太陽とじりじりと焼ける大地。  そこには、飢えと憎しみしかなかった。  少年は地の果てまで続く砂漠を走った。ただ、生き延びるために。   「ここまで来りゃ大丈夫だろ……」    荒れた呼吸を整えながら、流れ落ちる汗を拭う。  後ろを振り返り、追っての姿がないことを確認してから物陰に身を潜めて抱えていた麻袋を下ろした。 「おぉ……今日はまともな食い物じゃんか……」    今にもすり切れてしまいそうなほど使い古された麻袋には、カビの生え始めたパンと味気のない干した肉が入っていた。  たったそれだけでも、少年にとっては3日ぶりのまともな食事だった。  ――砂漠に囲まれた国、スヴェーク。  少年が生きるそこは貴族や王族が贅沢を極め、多くの民が貧困にあえぎ苦しむ国だった。  3日ぶりの食事をがっつく少年も例外ではなく、髪は老人のような銀髪でぱさつき、身体や服もあちこちが傷だらけで14才という年齢の割にやせ細って背も低い。  ふと、パンを齧る少年の動きが止まる。 「……ごめんな、みんな……俺ひとりで、食っちまって」  少年の目の前には、いくつもの墓標が立ち並んでいる。  同じような境遇で育ってきた仲間たちも、育ててくれたひとも――みんな、死んでしまった。 『シン……生きて』  最期の彼女の言葉が蘇り、少年――シンは嗚咽を漏らした。  会いたい。みんなに会いたい。食べるものがなくても、心ない大人から虐げられても、みんながいたから――彼女がいたから耐えられた。  たくさんの子どもたちに母と呼ばれ、太陽のような眩しい笑顔で多くの愛を注いでくれていた。誰よりも一生懸命、生きていたひと。 「アイリス……なんで死んじゃったんだよ」  夕暮れが訪れた砂漠に小さな水滴がひとつ、ふたつと落ちていく。  ひとり残されたシンは、孤独を打ち消すように自身の身体を抱いて懐かしい思い出に毎夜縋っていた。
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