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出会い
地位も権力も金もある、一般人からしてみれば羨ましがられるような何不自由のない暮らしをしてきた西園寺だが、本人はそれが嫌で嫌でたまらなかった。
地位も権力も金も親のものであって、自分の力ではないのに、どこに行っても何をしてもそれを目当てにすり寄ってくる輩は後を絶たない。
うんざりした結果、親に決められたレールに背き、家を出て親に反抗することでしか対処方法を思いつかなかった西園寺だが、それでも完全な自由を手に入れたわけではなく、これまたどこにいても何をしていても、いつの間にか影では親の手が伸びてくるという現実を突きつけられる羽目になった。
西園寺が東雲と出会ったのは、そんな時だ。
全寮制の大学に入り、何故か特別待遇として一人部屋を与えられそうになったのに反抗し、かといって少しでも機嫌を損ねようものなら家ごと潰されるようなヤバイ権力を持った親を持つ金持ち坊ちゃんとルームシェアしてくれる相手なんているわけもなく。
最終的に、決定した部屋の相方が東雲だった。
当時、自分に近づいてくる輩は全て敵だと警戒していた西園寺は、初め東雲のことを親の差し金か、と疑った。
だから、どうしてルームシェアを許可したのかと問いかけた西園寺に、東雲は冷めた目でシンプルに答えた。
「金がないから」
やっぱり裏で西園寺家から金をつかまされた類の人間か、と西園寺が吐き捨てれば、何の話? と東雲から背筋が凍るような目で見られた。
「君とルームシェアしたら、寮費半額にしてくれるっていうから」
学校側からの取引だったようだが、西園寺からしてみれば大して変わらない。
自分の意志とはかけ離れた、そういう待遇が嫌なのだ。
黙り込んだ西園寺に何を思ったのか、東雲が淡々とした口調で告げる。
「嫌なら、さっさと出ていきなよ」
僕は別に困らない、とそれはもうあっさりと言い放った。
たぶん、この時だ。
この時から、西園寺は、東雲という少年に興味を抱いた。
今まで、自分に近づいてくる人間は、みんな西園寺という家とのつながりを作ろうと必死で、媚びを売るような、気を遣うような、ごまをするかのような、そんな輩ばかりで。
東雲のようなタイプの人間は、生まれて初めて出会った。
驚きのあまりまじまじと凝視してしまった西園寺に、東雲が不愉快そうに顔を歪める。
「なに?」
「いや、……おまえ、変わってんな、と思って」
「ケンカなら買うけど?」
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