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「樹里、よかったらもう数点、絵を描いてみないか」
「喜んで。でも、どうするんですか?」
事務所のどこかに飾るのかな、などと考えた樹里だったが、次の徹の言葉に驚いた。
「実は、君の元居た家に飾ってあった絵を画商に鑑定させたら、数百万の値が付いたらしい」
「そ、そんな。まさか」
「100年に一人の天才らしいぞ、樹里は」
あまりのことに、言葉も出ない。
しかし、徹が自分をからかったり、嘘を言ったりするとも思えない。
ぽやっとしていると、徹からキスが贈られた。
「ん、ぅうん……」
穏やかに、滑らかに動く徹の舌は、樹里の乱れた心を整えていった。
キスを終えると、徹は樹里の眼を見て微笑んだ。
「ここはもういいから、マンションで絵を描くといい」
「でも」
「腕が鳴るだろう。自分の作品が、評価されたんだ。描きたくなっただろう?」
「綾瀬さん」
ありがとうございます、と樹里は社長室を出ていった。
「良かったな、樹里」
徹は、彼の消えたドアに向かって、カップを掲げて見せた。
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