souvenir impérissable

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「いやだ……!!死ぬな……リアン……!!」 アスタルは傍らに倒れたリアンを片腕にそっと抱き起こした。 リアンが何かを言おうと口を動かすけれど、そこからは鮮血がこぷこぷと溢れるばかりで音にならない。 「もう1回とりかえっこしてくれ、リアン……!!こんなのは……こんなのはいやだ……!!」 涙がリアンを見えなくするのを腕で拭って、アスタルは、間もなくリアンに最期の時が来ようとしているのをどうすることも出来ない自分に発狂しそうなほど腹が立った。 リアンはまるで痛みも何も無いかのように穏やかに微笑んでいた。 そして震える白い手をゆっくり握り、アスタルの目を見つめながら拳を近づけた。 アスタルが手を出すとリアンは拳をぎこちなく広げ、そこにコロリと丸い小石を落とした。 まるでリアンの瞳のような、甘い紅茶色の石。 1ピアン リアンの唇がその形に動いた。 アスタルが流れ落ちる涙もそのままに頷くと、リアンはそれは嬉しそうに笑い、やがてふうっとその体から何かが抜けていった。 グスン、と鼻をすする可愛らしい音がして、膝に乗った10になるかならないかの男の子は「それで……?それで父様はどうしたの?」と涙声で訊ねた。 「悪い男たちをみんなやっつけて、リアンは……タルポ爺さんの隣に埋めてやったよ」 子供の顔をハンカチで拭いてやりながら、アスタルは思い出せば今も尚切ない音を立てる胸に息子を抱きしめた。 「お前にリアンと名付けたのは、あの天使のような彼の自由さを、お前が授かるように願ったからなんだよ」 かつてのリアンとは違うブラウンの髪をした息子のリアンの頭を、アスタルは何度も、口には出さない願いを込めて撫でた。 守れなかった彼の命の分まで どうか彼のようにいつも幸せであれ 「リアーン!おやつのパンケーキを焼いたわよー!」 母親の声に、パンケーキ!と小さなリアンは泣いていたことも忘れてアスタルの膝からぴょんと飛び降り、駆けて部屋を出て行った。 アスタルは低く笑いながら椅子にゆったりともたれかかり、目を閉じた。 今も鮮やかに蘇る、陽の光を集めたようなあの笑顔。 リアンが最期に残した石は小さな布袋に入れられ、今もアスタルの胸ポケットに大切に仕舞われている。 END
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