古い木

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古い木を切っちゃいけません、呪われますよという忠告も聞かず、公園の木々は伐採される、人間全員マスクをしましょう、呪われますよ、私たちはゾンビ、今誰か横断歩道が赤信号なのに走り抜けていった少女を見ませんでしたか! その子を罰せなければなりません! さあねえ、一瞬の過ちは誰も見ていなければ罰せられない、少女はずっとそのことで苦しみ始める、あの時私が(フロアの一台の監視カメラの存在に気がつかず)自分のショーツの中を、誰もいないからって、私生理かもと思って確かめたのが私がパワハラに陥れられた原因じゃないかしら、あの時上司が私のデスクの上に監視カメラをつけたのも、これならこそこそできないなと小さく言ったのも、私のパソコンモニターにいきなり上司の顔がスカイプで映ったのも……こんなこと誰にも言えない、呪われている、私はきっと古い木を切ったのだ、ねえあんな場所に一年間いたのだってどうかしてる、いい年して私の存在を消そうとして村八分した会社、毎年届く(苗字が変わっても)社長からの明るい明るい喪中の年賀状、バカだ、みんなどうかしてる、みんな古い木を切ったんだ、私たちはみんなゾンビ、生きながら死んでいる、死んだまま生きている、絶望のただなかの世界に光が差した、それは私を不在にすること、実存、留守にしてますの看板を下げて、ねえどっかかなたに行っちゃおうよ、私たちはゾンビ、報道が取り上げます、私たちはみんな死んでいる、古い木を切ったから、ソファベッドだって棺桶のような気がした、ねえどっか彼方に行っちゃおうよ、発語せずにいれば誰だって簡単に死ねるんだよ、さあ小さく、小さく死ぬんだ、呪われているから、私は幸福です、呪われているけれど、呪いは解けないけれど、王子様のキスなんて嘘だったけど、 裸足で青空のもと、美味しい空気と陽の光を存分に浴びました。
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