Prologue~忘れられない

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Prologue~忘れられない

 紅い夕陽が美術室の窓から零れ、柏木先輩の髪をセピア色に淡く溶かしていた。  いつもは優しげな先輩の顔が、今は微かに強張っている。  思い詰めたように視線を床に向け、一呼吸したあと、私の目を見つめた。 「好きなんだ、白坂(しらさか)さんのこと」 「え……」  思いがけない告白に私は目を見開く。 「白坂さんが美術部に入ってきたときから、好きだった」  先輩の真摯な想いに応えたいと思うのに、私の口から出てきたのは―― 「ごめんなさい、私……」  残酷な断りの台詞だった。 「……そっか」  先輩は切なく微笑むと私の方に手を伸ばした。 「それなら最後に……触れてもいい? そうすれば白坂さんのこと、忘れられそうだから」  低く遠慮がちに囁かれ、私は視線を揺らす。  先輩は春から伯王(はくおう)高校へ行ってしまうから。私が同じ高校を目指さない限り、再会することはもうないだろう。
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