D-3

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「俺だってチョー迷惑ですよ。明日も朝から捜査会議だから、今夜中に各所からの報告を確認しておかなきゃなんなかったのに……。明日は早く出勤しなきゃ」 穂積は、泥酔して周囲に迷惑をかけた恋人の愚痴を盛大に零した。けれど人の家のダイニングで眠りこける酔っ払い――井上を見下ろす目は、その言葉とは裏腹にとても優しかった。 穂積は本当に井上が好きなのだ。思い知らされて、大輔は面白くない。こんな不真面目な酔っ払いどこがいいのだ、と腹が立つ。 「じゃあ先輩、俺はホテル帰るんで、一晩稜をお願いします。明日は八時半にO中央署なんで、朝になったら叩き出してください。あ、悪いんですけどシャワーは貸してやってくださいね。こんだけ飲んだら朝になっても酒臭いだろうから」 「はぁあ?! ふざけんな、お前がホテルに連れ帰れよ。いつものたっかいホテル泊ってんだろ? 二人で寝ても余るデッカいベッド使ってんだから、井上一人連れ込んでも問題ないだろ」 自宅が都内にある穂積は、捜査本部が立つとよほど遠い所轄でない限り、本部庁舎近くにある定宿の高級ホテルに泊まりこむ。大輔も何度かその部屋を訪ねたことがあり、あの夜を思い出すと――すぐそばに恋人がいるのにドキドキしてしまう。 「もう俺の体力が限界です。タクシー降りて、ここまで連れてくるだけで大変だったんですから、これ以上酔っ払い連れ回したら、腰がやられます。それに俺の泊るホテルだと、どっかの記者に見つかるかもしれないんですよ、本部も近いし新聞社の支社もありますしね。事件捜査中の刑事が、歩けないほど泥酔してるところなんて見られたら、速攻記者がウキウキで俺の部屋を訪ねてきますよ」 「だからって、井上一人置いてくなよ」 「いいじゃないですか、先輩と稜の仲なんだから。稜、先輩に会いたい~って騒いでうるさかったんですよ」 「気持ち悪いこと言うな」 酔っ払って穂積に迷惑をかけた井上は気に入らない。しかし大輔は、目の前でポンポンと軽口を言い合う晃司と穂積を眺めているのも、面白くなかった。 穂積は大輔には見せたことのない顔――とても自然で年相応な表情を晃司には見せるし、晃司も大輔には見せない、気取らず飾らない表情で穂積に文句をぶつける。 二人は絶対にその仲の良さを認めないけれど、二人はこうして大輔を除け者にして二人だけの世界を作ることがある。 大輔はムクれた。
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