D-3

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深夜に晃司の自宅を訪ねてきた穂積は、井上を抱えていた。大輔は顔をしかめた。井上から強いアルコール臭がする。香にもたれかかった井上が酔っ払っているのは明らかだ。 それ――で十分だと言いたくなるほど、井上は泥酔していた。 「マジで来やがった。つうか井上、ベロベロじゃねぇか」 晃司が面倒くさそうに玄関にやって来た。晃司が携帯電話もインターホンも無視した理由がわかる。晃司の携帯を鳴らし続けたのは、きっと穂積だ。 「とりあえず、入れよ。酔っ払いが外で騒いだら、マジで近所から苦情が来るわ」 「俺は酔ってないぞぉ~」 井上が酔っ払いの常套句を、呂律の回らない口調で言う。大輔は呆れ返ったが、穂積が玄関に上がるのも大変そうにしているので、手を貸して井上を穂積と反対側から支えた。 酔ってほとんど意識がない大の男は相当重い。穂積と二人がかりでもフラフラしながらなんとか玄関から上がると、井上をダイニングキッチンのダイニングチェアに座らせた。井上は重力から解放されて楽になったのか、そのままダイニングテーブルに突っ伏して眠ってしまった。大輔はほとほと呆れ果て、開いた口が塞がらなくなる。 「はぁ……重かった」 穂積が息を吐きながら、井上を支えていた肩を回す。 「なんでこいつ、こんなに酔ってんだ? 例の事件、まだ終わってないだろ。事件中に泥酔させんなよ」 「俺が飲ませたわけじゃないですよ。今いるO中央署の刑事課に、田所さんでしたっけ、稜と先輩の同期がいるでしょ」 大輔はドキリとした。穂積が井上を名前で呼んだ。二人は付き合っているのだから当たり前だが、その事実をハッキリ突きつけられるとやはり複雑だった。 「あいつと飲んでたのか。田所……ザルだぞ。井上も酒強いけど、あいつは朝まで飲んでも顔色も変わらないからな。あれに付き合ってたら……ベロベロになるわけだ。お前も一緒だったのか?」 「俺はまだ帳場で仕事してましたよ。それなのに、田所さんとうちの篠塚さんと飲んでた稜から電話で呼び出されたんです。三人が飲んでた店が先輩の家から近いってどっちからか聞いて、先輩の家に行くって言い出して……。勝手にタクシー停めて乗り込んじゃうし」 「なんだそれ、いい迷惑だ」
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