上杉謙信

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謙信の言葉に、樹がストップを掛けた。 「…さっき謙信殿は、上杉家以外の相手には特別な感情を持たないって言いましたよね? なのに取引相手ーーー他所の大名の感情も気にかけるべきだと言うのは矛盾していませんか?」 「矛盾?どうして? 私は上杉家の為になることしかしないと言ったろう。 他人の感情を気にかけ、具合を伺いながら取引をするのはとても重要なことだよ」 「…つまり、自分は相手に思い入れたりしないけど、 相手の感情には敏感でいるようにしている…と?」 「そういうことだね。 それが結果的に上杉の為になるのだから。 そして景虎は、それが理解できていない…いや出来ない人間なんだ」 「…っ、でも景虎殿は、あの時菊姫を思ってーーーあ」 樹ははっとして口元を押さえたが、すでに遅かった。 「『あの時』って?」 謙信に問いかけられた樹は、なんでもないとは言えず 起きたばかりの一部始終を話して聞かせた。 「…なるほどね。景勝が菊姫との婚約を拒んだことを非難する場面に出くわした訳だ」 「そうなんです。本当に偶然で、決して立ち聞きするつもりじゃなかったんですけど」 「いや、お主を責めるつもりはない。 それで景虎が景勝に対して、『お主の行動は菊姫に失礼だ』と諭した訳だね」 「はい…。だから、菊姫のことを思いやってくれていたのかと…」 樹は、なぜ自分が景虎の味方のような立場で話しているのか混乱しそうになったが 景虎に対してあまりに低く評価する謙信に反発したい気持ちもあった。 「ーーーならば、景勝の目線に立って考えてみてごらん」
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