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腹ペコ坊主、腹いっぱい。
【隆寛】
(腹減った…)
電車の中でお腹をさすりながら窓の外を眺める隆寛。今日は法要後の昼食に檀家に誘われたが断った。気を使いながらの昼食は苦手だ。
そういえば正嗣と初めて会った時も、腹がへってたなと思い出す。ちょっとうずくまってただけなのに。正嗣があの時来てくれて驚いた。そしてその後の、手料理が何とおいしかったことか。
二人で会うようになって、正嗣はたまに家でご飯を作ることがあった。得意の中華料理をふるまってくれて、隆寛はそれをパクパクと食べる。嬉しそうに食べる隆寛を、正嗣は食事をとることを忘れるほど、見つめていた。
プシュー、とドアが開き隆寛は人の流れに乗ってホームにおりた。目の前にあるベンチに座り、下を向く。
(このまま、会わなくなるのかな)
何度連絡しても連絡がつかない。もう正嗣は自分と会いたくないのかもしれない。胸が苦しくなり少しだけ目が潤みそうになったとき…
「ぐぅぅぅぅ〜〜」
空きっ腹の音が鳴る。はあ、とため息をつく隆寛。
「また腹減ってんの」
後ろから声がして隆寛は慌てて振り向く。するとそこにいたのは正嗣だった。以前より髪が短くなっている。
「正嗣……」
「仕方ねぇなぁ、飯作ってやるから」
そう言って手を差し出す正嗣。耳が赤くなっている。その手を隆寛はおずおずと握る。すると照れたように正嗣が笑った。
【二人】
正嗣の部屋に入ってすぐ、どちらからともなく体を抱きしめてキスをする。もちろん、触れるだけのキスではなく、いままで会えなかった分を埋め合わせるかの様な深いキス。お互いの舌を絡め合い、口内を舐める。
「ん……ふっ……あ……」
溶けるようなキスに、法衣を身にまとったままの隆寛はそのまま腰が砕けたようにしゃがみ込んだ。
「大丈夫?」
「ご、ごめん。あまりにも気持ちよくて」
隆寛の正直な言葉に、正嗣は大笑いする。
「後でもっと気持ちいいこと、しような。まずは腹ごしらえしないと」
久しぶりに見る正嗣の笑顔。髪が短くなって、少し若返ったその顔に、隆寛はホッとしながらもドキドキしていた。
正嗣の久しぶりの手料理は、天津飯だった。ふわふわ卵に甘い餡。モリモリと食べる隆寛を、頬杖をついてニコニコしながら見つめる正嗣。ふいにその視線に気づいて、隆寛は手を止めた。
「……どうしたの」
「いやー、やっぱり隆寛が俺の作った飯を食ってくれてるの、嬉しいなと思って。あ、ほっぺに餡がついてる」
そう言いながら口の横をベロリと舐めてきた正嗣に、隆寛は真っ赤になる。
「あの、この前はごめん。逃げるように離れて」
「俺の方こそごめんな。変に連絡避けて……ってか、あの坊さん、何」
良照のことだ、と隆寛が思いやはり気になってたのかと一瞬チクリと胸が痛む。
「あんなに隆寛とイチャイチャして!仲良すぎない?」
「え?良照が?」
「何で下の名前で呼ぶの?おかしくない?」
隆寛はあっ、と口を手で塞ぐ。正嗣の様子がおかしかったのは良照に妬いてたせいなのか、と今更気づいた。
「隆寛が俺以外のやつと仲良くしてるの見たくない!」
少しむくれた顔をして隆寛につめよる。隆寛は肩を震わせ、笑いながら答えた。
「良照は……兄貴だよ。実家で住職してるの」
「はぁ?」
兄貴、と聞いて正嗣は気が抜ける。
「き、兄弟で何で名前呼ぶんだよ」
「昔からなんだよ……でも、よかった」
隆寛は体を正嗣の方に向け、ギュッと抱きしめた。
「良照かっこいいから、正嗣、お坊さん好きだし、絶対好きになると思ってあの時遠ざけたんだ」
「そうなの?俺、髪がある奴は興味ないんだよ」
ポンポンと隆寛の坊主頭を叩く。そして首筋にキスをしてそのまま耳たぶを甘噛みした。
「ひゃ…っ」
「うなじから耳もとまでのラインが大好き。髪がないからすっごくそそられる」
するりと法衣の前から手を入れて、胸元を弄る。敏感な突起を見つけると指でピン、と弾いた。
「あっ……まだ全部食べてない」
「あとでまた温めるからさ。食欲も性欲も強いとこも大好き」
そう言うと隆寛の顎を手で押し上げてキスをする。そしてそのまま隆寛をそっと組み敷いた。
「ここで?」
「あとで移動しよ」
正嗣は耳元で囁くとそのまま乳首を弄る。その刺激にむくむくと隆寛の下半身も、元気になってくる。そう言えば正嗣に会えなかったこの間、気がついたら自慰をしてなかったけど、体は全く疼かなかった。
それなのに正嗣とこうして少し触れられただけでも、自身のアレは元気になりすぎて痛いほど。
「隆寛、もうすごいじゃん。そんなに我慢してたの?」
「…ッ、正嗣に触れられるまで、何もしなかったから」
「マジで?隆寛がしなかったってすごい」
その言葉に思わず笑う。
「人を何だと思っ…あっ!」
急に下着の中に手を入れられ、声をあげる。
「やっぱ、もうベッド行こうか。我慢出来ない」
寂しかった時間を埋めるかのように、二人はお互いを求めて貪り続ける。久しぶりに挿れるそこは中々解れなくて、正嗣はずいぶん執拗に解していく。
「んん…….、あっ、や…ぁ」
指を増やして、いやらしい音が室内に響く。もう早く入れて欲しくて、無意識のうちに隆寛は腰をくねらせていた。
「ほんと、ヤラシ」
ニヤつきながら自分の反り立ったものを解したそこに擦り付ける。ヒクヒク、と待っているのになかなか挿れない正嗣。隆寛は思わず正嗣を睨みつけた。
「正嗣、も、挿れてぇ……」
蒸気した頬。潤んだ瞳。半分開いた口がまたいやらしい。正嗣はたまらなくなってキスをする。そして自分の方に隆寛の足をかけて、その待ち構えている場所にようやく自分のモノを挿れた。グププ、と音を立てて侵入していく。ゆっくりと、ゆっくりと。
「あ…ああ…」
腰を浮かせながら甘い声を出す隆寛。出し入れに強弱をつけながら奥まで挿れる。正嗣の余裕だった顔もだんだんと余裕がなくなっていく。
奥を楽しんでみたり、円を描くようにグリグリとすると隆寛は一段と声をあげた。
「やあ…ッ、ダメ…、グリグリしちゃ…ああ…ンンッ」
「何で?好きだろ、これ」
「好きだけど……気持ち良すぎて…すぐイッちゃうよぉ…」
「じゃ、今日の…ッ、一回め、イッとこうぜ…ッ」
大きく腰を突き出して、深く深く奥へと突く正嗣。
「ひ、ああっ、あっ、んんッ、……キモチイイ…ああっ」
「出る…ッ!」
ビュルル、と正嗣と隆寛はほぼ同時に達した。
「……うわあもう、体べちょべちょ」
あのあと、欲望のまま三回ほど続けた。さすがに腰がだるくてたまらない。隆寛は立ち上がりシャワーを借りたいと言う。
「もう、帰るの」
布団の中から正嗣が寂しそうな顔を見せた。
「明日も早いからね」
「そっか……」
「……あのさ、正嗣。僕ら中々会えないし、これからもこんな感じだから。僕の職業は変えられないし、正嗣だって勤めるでしょ」
正嗣が髪を切っていた理由。それは、とある会社の面接のためだった。ようやく掴んだチャンスを逃したくないと覚悟した。何より頑張っている隆寛を見て、自分の姿が情けなくて嫌になった。だから真剣に頑張ろうと髪を切ったのだ。
「……そうだな、もっと厳しくなるな」
社会人になれば自由時間なんてうんと少なくなる。多忙な隆寛とは今以上に、会えなくなるだろう。シュンとする正嗣。
「だから、一緒に住む?」
「…は?」
隆寛の言葉に正嗣は間抜けな声を出した。
「でも隆寛、実家住みじゃ……家を継ぐって」
「え?いま、一人暮らしなの言わなかったっけ。実家に住んでるのは良照で、お嫁さんもいるよ。もう父さんは引退するから良照が住職で、僕が副住職。二人で実家を継ぐって感じかなあ」
一人暮らししてるなんて聞いてない!と正嗣はわめき始める。
(そんなん、早く言ってくれてたらあああ)
あれこれ悩まなくてもよかったのに!一人暮らしなら何でこの部屋ばかり来てたのさ、とぶつぶつ言う正嗣に隆寛は笑いながら答えた。
「美味しいご飯作ってくれるから。僕の家に来てもらっても、調味料とか全然置いてないからねえ」
「何だよそれぇぇぇ……」
シャワーを終えて法衣を着た隆寛は、大きく背伸びをして草履を履く。
「じゃ、正嗣。さっきの話よろしくお願いしますね」
ニヤッと笑う隆寛。ほんとにもう、敵わないなと正嗣はため息ついきながら言う。
「前向きに検討します」
そのあと、正嗣がパソコンで不動産情報を検索しまくったのは言うまでもない。
【了】
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