退屈しのぎ1

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退屈しのぎ1

目の前が真っ暗になった。牛乳がない。 風呂上りの一杯が仕事で疲れた身体を癒すというのに。 溢れ出た冷気が熱をもった身体を撫でるが、絶望のあまり何も感じなかった。 「マジか...」 その場で蹲り一人呟く。 そんなはずはない。確かに一昨日、まとめて買ってあったはずなのに。 だが現実は非常だ。あるべき位置に牛乳がない。 牛乳でなければダメなのだ。 俺の心を満たすことは出来ないのだ。 これは何年と続けた俺の習慣であり、欠かしたことのないルーティーン。 その習慣はもはや俺という人間の習性と言い換えていい。 犬は喜ぶと尻尾をふる。 猫はまたたびを見るとじゃれつかずにはいられない。 これを抑えるということは不可能であり、強制的に封じられてはストレスでしかない。 どうにかしなければならない。 このまま牛乳を飲むことが出来なければ、俺は俺ではなくなってしまう。 これは決して大袈裟な話ではない。 俺は大真面目だ。 考える。思案する。模索する。この絶望的状況を打開する方法を。 「...まだ時間はある」 3分だ。3分ルールだ。 まだ風呂上りの体はホカホカと湯気を放っている。 この状態で牛乳を飲むことが出来れば、俺の心は満たされるのだ。 急いでコンビニへ行かなくては。走れば2分で着く。そして速攻で買い飲む。 これしか方法は残されていない。 髪はバスタオルで拭いだだけだからまだ湿っている。 こんなあからさまに風呂上りの状態で外に出るのは憚られる。 だがもはやなりふり構っている場合ではない。
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