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プロローグ
少女は目隠しされたかのように手探りをして恋人を探した。
彼に会いたい。なんとしてでも、愛しいひとに会うのだ。
白い闇がどこまでも広がっていた。
1
混沌惑星ガレ。
円筒状の異空間が、空の中央付近に存在している。黒い穴が空を貫通しているように見えるが、穴の奥を覗いても星を仰ぎ見ることはできない。
なぜなら、それは宇宙空間への入り口ではなく異形宇宙の排泄口だからである。その口は、淫らな生き物の肉襞のように、大きく開いたり小さく閉じたりを繰り返している。異形宇宙で不要になった時間や空間、宇宙船の残骸、高度文明の遺産、白色矮星の欠片などが、黒い穴から排出されるのだ。
稀に、膨れ上がった腹に人間の血液や死肉を詰め込んだ壁蝨族が、排泄口から飛来することもあった。
彼は体内に蓄積された高熱を、沸点に達する油へ変換していた。煮えたぎった油の玉は泡状に膨張し、さらに沸々と泡立ち続けた。ついに彼は鈍く光る嚢胞球体の塊りとなり、自分の意思で地表を回転しはじめた。目も口も鼻も手足すらないが、体内に隠れている触覚が方角を操ることができる。皮膚は高温の油脂で覆われており、固い岩盤に銀色の油膜痕を残していく。
触覚は、異形の宇宙へ通じる異空間を知覚し、排泄口が裂け始めるのを捉えていた。
ぼと、ぼと。
ぼと、ぼと。
廃棄物の堆積がいたる所にできあがり、堆積物のまわりでは死臭を漂わせた壁蝨族たちが羽を休ませていた。
そのすぐそばで、白色矮星の微小な欠片が最期の爆発を起こした。
いつもの事なので、彼は動じるそぶりすら見せなかった。
天まで焦がす火柱と轟音は、壁蝨族たちを粉砕した。矮星の小規模な爆発であっても、その破壊力は凄まじく、時間と空間を捻じ曲げてしまうこともしばしばであった。
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