黒い実

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 その男は裁判官。魔女狩りで捕まった被疑者を何人も有罪と見做し、死刑の判決を下して来た。  自明の事だが、魔女なぞ人間が勝手に作り出した空想の産物の一つ。つまり男は無辜の女を何人も犠牲者にし被害者にして来たのだ。  そんな迷信を信じる愚かで罪深い男の屋敷に或る日、女が訪ねて来た。  取次の召使が男に告げた。 「旦那様、ブルーベリーを売り歩く商売女と申す者が来ておりますが如何いたしましょう?」  男は職業病に侵され、女を見たら魔女と思えと普段、自分に言い聞かせている程、警戒心が強くなっているので商売女と聞いて当然用心したが、ブルーベリーと聞いては追い返す訳にはいかなくなり、「んー、ブルーベリーか、それは放っておけん。応接間に通してやれ!」 「はい、畏まりました!」  召使が玄関の方へ戻って行くと、男は居間から応接間に移った。  暫くしてノックの音。 「よし!入れ!」と男が言うと、ドアが開き、失礼しますと女は言いながら入って来て一服の清涼剤と言うべき笑顔で男を忽ちの内に魅了した。  で、油断して鼻の下を長くした男に、「さあ、ここへ座って!」と促された女は、男の向かいのソファに座って一礼すると、テーブルに置いた籠からビーズ玉のような黒い実が沢山入った瓶を取り出して、「これを召し上がりくださると、目がとてもよく見えるようになりますのよ。どうです。試しにお一つ召し上がりませんか?」と勧めて、にっこりと微笑んだ。
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