第1話

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第1話

高本(たかもと)あゆみは、短大卒業し加賀食品に就職。 勤め始めて3年。 就職活動が難しい時期に、採用されてありがたかった。 加賀食品は、食品卸会社。地域密着型で、3代続いている。 あゆみの仕事は、雑用含め、多岐に渡り、覚えられるようになる迄が大変だった。 教育係として付いてくれた女性社員は、大ベテランで、少し世話焼きの川名(かわな)さん。 4人の子持ちで、とてもパワフル。 就職先が、地元だったがため……周りは意外と共通の話題で盛り上がることが多い。 最初は、「就職先が地元しか・・・・・・」と思っていたが……入社してみると、自分には心地(ここち)の良い就職先だった。 都市部でもなく、昔ながら、でもとは違う。近過ぎず、遠過ぎずの距離感。 そういう環境がもとよりあっていた。 「高本さん、次の伝票処理やるわよ!!」 「はい」 午後に入り、エネルギー充電完了の川名さんが元気に声を掛けてきた。 あゆみは、もとは大人しい性格。就職して、「返事はしっかり」と言われてからは、相手に伝わる声で返事が言えるようになった。 いつものように、川名さんと手分けをして伝票処理をしていく。 電卓とパソコンの睨めっこ。合間に、電話対応も入る。 いつもの変わらない仕事の時間が、過ぎていくはず……だった。 その日まで……。彼が、現れるまでは……。
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