森の中にある祠

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森の中にある祠

貴江「あら、隆さん!」 隆「どうしたの?そんなにビックリして」 貴江「だって、あそこ見て。ほら、あの奥!」 隆「どこ?」 隆が貴江が指差す方を、目を細めながら見る。 貴江「ほら、小さな祠があるわ」 隆「ほんとだね。ちょっと行ってみようか」 貴江「うん」 ここは、森の中。隆と貴江は恋人同士で、近く森へハイキングにきていた。 そして小さな祠の方へ向かって行く。 貴江「もしかして、悪霊とかを封印している祠なのかしら!」 貴江は、怖くなり隆の腕を掴む。 隆「ふっふ、違うよ。あの祠はこの森の神様が祀られてるんだよ」 貴江「そうなの?なんでわかるの?」 隆「僕が小さい時に、祖母から聞いた事があるんだ、この森には大昔、動物好きの神様が天から降りて来ては、動物と遊んでいたんだけど、たまたまこの森に山菜取りに来た、村の娘に一目惚れをして…」 貴江「それで、それで」 隆「それで…その娘を嫁にしたいと思った神様が男性に化けて、猛烈にアタックしてね。」 貴江「なんか、面白い神様ね」 祠の前で、ケタケタ笑う貴江。 隆「そして、見事!」 貴江「結婚したの?」 隆「見事に振られたとさあ…」 貴江「かわいそうな神様…」 隆「まあ、かわいそうだよね。で振られて悲しみのあまりに涙が止まらず、雨が降り続いたらしい。」 貴江「あら…洪水になりそうね…」 隆「だから森に住む動物達は、神様を励ます為に、酒盛りや踊ったりして神様を励まし続けたらしい。」 貴江「それで?どうなったの」 隆「神様は、そんな自分を励ます動物達を見て、悲しみは人に見せまいと明るい神様に戻ったんだ。」 貴江「へぇー…でっ、どうして祠が祀られてるの?」 隆「それから、何年か経ったある日、若い遊女がこの森へ逃げてきたんだ。その遊女は昔、神様が一目惚れした女性だった。」 貴江「遊女になってたの?」 隆「あーその頃は、この辺りはとても貧弱な土地で、家族の為に遊郭へと売られて行った女性も多かったらしい。」 貴江「悲しいね」 隆「そうだね…神様が一目惚れした女性も家族の為にと遊女になったんだけど、村に残した恋人が病に伏せてると聞いて、遊女はなんとかして、薬を届けたいと、薬を持って命からがら逃げてきたんだ。」 貴江「ぐっす…」 貴江は、祠を見ながら、隆が話す昔話しを聞いて、目が熱くなっていた。 隆「しかし、この森まで逃げてこられたが、追手が来てる事に気づいた遊女は、 森の神よ、どうか、この薬をあの人へ届け下さい。その代わり、私の命を捧げます!と祈りはじめたんだ。」 貴江「で?どうなったの?」 隆「すると、動物達が遊女の前に現れて、神様を振って悲しませたのに!そんな都合の良い事を!と怒ってしまってね。そしたら、遊女は薬をあの人に届けてくれたら、神様と結婚をする。と言ったんだ。 すると、動物達は天にいる神様に娘の事を伝え、神様は森へと降りてきたんだ。 神様は、遊女となった娘に、薬を届けたら結婚するんだな?と話し、遊女ははいとうなずくんだ。」 貴江の目には、大きな涙がポロポロ出ていた。 隆「そして、神様は遊女の恋人の元に行ったんだ。」 貴江「行ったんだ…」 隆「神様は、普通の青年で薬屋に扮して、床に着いている遊女の恋人に向かって、こう伝えるんだ。」 隆は、小さい祠にじっと見つめまた話しはじめた。 隆「この薬を飲みなさい。すれば、たちまち身体が良くなる。身体が良くなれば、これを持ち、お前の恋人を迎えにいきなさい。と…」 貴江「え?神様と遊女が結婚するんじゃないの?なんで?」 隆「待って、待って。話しを聞いて。それで、遊女の恋人は、薬を飲んでたちまち病から起き上がれるようになったんだ。そして、その足で早速、遊女の元へ行ったんだ。遊女がいる館へ行くと、恋人を追って逃げた罰だと、大きな木に縛られていた。 自分の為にと嘆き、急いで館の主へ、遊女を許して欲しいと志願した。 しかし、主は逆にうちの商品である遊女に傷をつけたと、恋人に殴りかかろうとしたその時、袖口から神様から貰った物が床に落ちたんだ。」 貴江「何?何なの?その物って」 隆「それは、小判だったんだ。袖口からボロボロと小判が落ち、その小判を館の主が、急いで拾いはじめ、この小判で娘を返してやろう!と言って遊女は、恋人の元へ帰れる事になったんだ。」 貴江「神様、やるじゃないの!でも、どうして?娘と結婚できるチャンスじゃない…」 隆「動物達にも、神様は人が良すぎる… だから、嫁さんができないんだと言われたらしい。」 貴江「確かに…」 隆「まあ、それから娘と恋人は、元の田舎に戻り、神様への御礼として、小さいな祠をこの森のどこかに、造って祀ったんだって。だから多分、この祠なんじゃないかな。」 貴江「そうなんだ。じゃ、お花を備えましょう。」 そう言って、近くに生えている野の花を、小さな祠に備え拝んだ。 隆「祖母が言うには、その神様はこの森の守り神となって、ずっと森を守りながら、嫁を探してるんだとさあ」 貴江「神様の婚活?早く嫁が見つかると良いね。」 隆「そうだね。じゃ、そろそろ僕達も戻ろうか。」 貴江「そうね。」 隆と貴江は、小さな祠にもう一度拝み、祠から離れていった…
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