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「……でもこんな男、止めておいた方が良いと思うけど。俺が比奈子なら絶対選ばない」
そう言った瞬間、店のスタッフがランチセットのスープを運んで来てテーブルの上に静かに置いた。
落ち着くコンソメの香りが、ほのかに漂う。
比奈子はそのまま無言で、俺をじっと見つめている。
「食べたら?冷めるよ」
カトラリーケースからスプーンを取り出して、比奈子に渡した。
「菜緒さんと何かあったの…?」
「…別に、何も無いけど」
「だって柊哉、会った時からずっと寂しそう…」
「気のせいだよ。それにそうだとしても、比奈子には関係な……」
俺は慌てて口を噤んだ。
比奈子は何処か悲しそうに、また俺から視線を外す。
俺はスプーンを比奈子の前にそっと置いた。
俺、最低だ……
比奈子の事急に呼び付けておいてこんな事言うなんて……
「ごめん……でも本当に何も無いから」
何も無かった。
元々それがあったのかすら、俺にはもうよく分からない。
『普通の家族に戻ろうよ……』
少なくとも、今はもう何処にも何も無い……
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