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園村とふたり、コンビニへ。
自転車をこげば、五分とかからない……けど、園村は自転車を持っていないので、押して歩くことに。
ふだん、二人で駄菓子を買いにくることも多い。店員さんも顔なじみになってきて、レジで会計をするおれ達に、親しげに話しかけてくる。
「今日はおつかいなの?」
いつもと違って大量に買い物をしているので、店員さんは首をかしげた。
「はい! お好み焼きパーティーです」
園村が嬉しそうに話すので、「そうなの。いいわねぇ、楽しんでね」と、店員さんがほのぼのと笑った。
吉倉リクエストのピザポテト、スナック菓子、チョコ菓子、飲み物……欲張って色々買いすぎた。まあ、あまったとしても、後日みんなで食べることにはなるだろう。
店員さんが商品をレジ袋に入れ、こちらに差し出してくる。受け取ろうとする園村を制し、おれが持った。
……重い。でも必死で無表情をつくり、店員さんに頭を下げて店を出る。
「あらあら」
店員さんの生温かい視線を感じたが、気にしないでおこう……。
「静彦くん、だいじょうぶ?」
レジ袋を、なんとか自転車の荷台に置く。園村が心配そうに駆け寄ってきた。
「べつに、これくらい平気」
素っ気なく答えながら、自転車のスタンドを起こす。「帰ろう」と声をかけて、歩きだす。
おれの後ろをついてくる園村から、ふふーっと笑い声が聞こえた。
「静彦くん、かっこいい」
「……はっ?」
突拍子もない一言に、びっくりして振り返る。
それがいけなかった。目の前に迫っていた電柱に気づかず、頭をごちんとぶつけた。
「ぐ……っ」
痛い。頭を抱えたり、倒れそうになった自転車を支えたりと忙しいおれに、園村があわてた。自転車を支えるのを手伝ってくれる。
「ご、ごめんね……!」
「いや……別に、怒ってるわけじゃないからっ」
だめだ。今、絶対顔が真っ赤だ。周りに誰もいなくてよかった……。
園村を見ると、おれに痛い思いをさせたのが申し訳ないのか、まだしょんぼりとしている。別に、気にすることはないのに。おれとしてはむしろ、嬉しかったんだから。
……うん。ちゃんと言おう。
「かっこいいって言われるのは嬉しいから、へこまなくていいよ」
そこで、すうっと息を吸う。
呼吸をするように自然に、その名前を呼んだ。
「芙美花」
思ったよりすんなりと、三文字が声になる。
園村が……いや。芙美花が、ぱちぱちと瞬きをする。そして、ぱあっと表情を明るくした。
「い、いま」
きらきらと目を輝かせて、一歩おれに近づく。
「芙美花って……っ?」
「……ん」
うなずくと、わーっと声を上げて、ぐるぐる回りはじめた。すごくはしゃいでいる。そしておれは、今さら恥ずかしくなってきた。
「……早く帰るぞっ、みんな待ってるんだから!」
自転車を押す手にぐっと力を込め、早足になった。
はずんだ足取りで、芙美花が隣に並ぶ。きっとしばらくのあいだ、ニコニコしているに違いない。
……あ、と気づく。
家に帰って“芙美花”って呼んだら、みんなに茶化されるだろうな。
死ぬほど恥ずかしい。でも、そこはもう開き直ってしまおう。きっと呼んでいるうちに慣れるだろうし……何より今は、達成感で満たされているんだから。
ふたりで並んで、家路を目指す。
背中にあたる日差しが、カラッとしていて暑い。青々とした空をかいま見て、おれは実感していた。
もうすぐ、夏が来るんだ。
ひととせ 第一章・完
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