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「……通常の物ならば良いのですが、狂っているもの。あるいは死んでいるものは決して獲らぬようにされよ」
「心得ました」
話をした長老の息子は他にも都の話を聞きたがっていた。しかし笙明は疲れたと言い、部屋で休ませてもらっていた。
「あ、ここにいた。もう」
「そんなに怒るな」
「だって」
不貞腐れている澪を彼は優しく腕に抱いた。
「どうした?村娘とおしゃべりは」
「みんな笙明様の事ばかり聞くの。面白くないわ」
「都の男が珍しいだけだ。さて、篠と龍牙はどうした」
「あ?そうだった!」
用事を思い出した澪は彼の手を引き庭に出てきた。そこでは篠と龍牙が汁を食べていた。
「遅いよ。先に食べています」
「ハハハ。仕事後は格別じゃ」
「はい、笙明様。澪の作った物です」
「それなら良い。ではいただこう」
夕刻の庭先で鍋の汁を食べていた一向に長老の息子が顔を出した。明日の相撲の話であった。
それは明日の相撲に篠と龍牙も参加の誘いであった。
これに気を良くした二人は食後、相撲を取り興じていた。笙明と澪は笑って見ていたが、彼は山からの嫌な気配を感じていた。
……祭りの用意であるが、どこか奇妙だ。
村人達の楽しそうな夜の中、彼だけ一人、心を鎮めた夜を過ごしていたのだっ
た。
◇◇◇
翌朝。村の祭りが始まった。古老による鬼の面をつけた舞には驚いた笙明だったが、見事な動きに思わず都を忍ぶほどであった。そして相撲が始まった。村の広場に作られた土俵には次々と男達が戦い、それを見た女達は歓声をあげて行ったのだった。
この熱気を妖隊の一行も用意された席で見物していた。
「よし!俺も行く」
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