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「これはこれは、白波瀬社長」
─ 聖コントリビュート研究病院 ─
診断を下したあの日から、最初に顔を出した人物が少し窶れた白波瀬であったことに産科医の桜庭は、彼の敗北を悟った。
「桜庭君」
「訊きたいことはわかっています。
検査の結果でしょう?
つまりアシュリ君の魂の番がどっちだったかと」
「そうだ、教えてくれ」
「残念ながらアシュリ君のメイトは鷹堂 神です」
その言葉に白波瀬はしばらく動かず桜庭を見つめたままでいたが、
急に熱から解かれたかのように身を緩め、目を閉じた。
「そうか、、、くくくっ
やっぱり、、、私が偽番だったのか」
桜庭から勧められた椅子に座ってもなお
ひとしきり笑い、
「アシュリに『メイトは鷹堂』だと告げられても諦められなくてな。
、、、しかし何故私の訊きたいことがわかった?」
笑顔のまま興味深そうに顔を上げて再び桜庭を見た。
「それはですね」
桜庭は眼鏡の位置と姿勢を正し、
「イメージナリーメイト症候群のオメガに選ばれたアルファのうち、検査結果を訊きに来られるのは100パーセント偽番の方だからです。
たとえ罹患していても大抵のオメガは正真正銘のメイトを選びますし、真のメイトであるアルファは検査結果に頼らずとも魂で自分のメイトを確信する。
、、、未知なる種の神秘ですね」
「なるほどな、、、」
「気を落とさないで下さい白波瀬社長、この私が引き続き責任を持って、あなたの
『魂の番』を探しますよ」
「気軽に言うな。
天国から奈落に落ちたばかりだぞ」
それでも あっさりと立ち上がった白波瀬は、爽やかな顔で自嘲を制した。
「失礼しました。
確かに、あなたにとってアシュリ君はメイト同然でしたでしょうからね」
「『しがみつくより手放す方が遥かに力を必要とする』と誰かが言っていたが、、、」
「J.C.ワッツ」
「はははは、、、
これまで何かを手放した経験などなかったが、今回身をもって知った。
今はどこもかしこもひどい筋肉痛だ」
ひらりと上げた手をゆらゆらと揺らしながら出て行った。
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