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◇  少女が大広間へ行くとそこでは既に集まった人々が席についており、席に座れなかった人々は後ろの方で立ち見になっていた。母親の隣の席に少女が座ったのを確認して、家の主である父親が人々の前で挨拶を始めた。  どうやら、舞台上の語り席にいる黒髪の背の高い青年が今日この町に着いた語り部らしい。  少女は少しがっかりした。  自分自身を投影できる女性の語り部の方が彼女の好みだったからだ。  もし、あそこに座っているのが自分だったら、どんな話を語るだろう。  今までに聞いた語り部の話は一つ残らず覚えている。読んだ本も。  少女が妄想している間に父親はいつの間にか挨拶を終え、青年の話が始まっていた。 「さて、今日はこんなに多くの人に集まってもらって、それに…その、こんなに歓迎してもらったのは久しぶりだから、どんな話をしようか」  少女は更にがっかりした。確かに青年の声は水彩絵の具のように透明で良く伸びたが、話し方がまるでなっていない。  少女を落胆させたまま、語り部の青年は更に話し続けた。 「この街には大きなお城があったけど、俺が今まで見てきた街で大きなお城があった街はとても少ない。今日はその中から一つ、お城のあった街の話をしよう。……そのお城には、王様と、一人娘のお姫様がいた」
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