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たしかにわたしの〈ルラーシュ〉には、金払いのいいお客さんが来て、繁盛している。
だけど、一日に一人、あるいは一組が、死というものがちらつく相談をしてくる。
おそらくだけど、神様はわたしに、他人の死の危機を救い、そのとき存在しなかった死をわたしの夢の中で解消させよ、そんな能力をお与えになったのだと思う。
確かに普通の占いも、カードとこれまでなく親しくなって、軽い悩みから、ちょっと重めのものまで、クライアントの望む道やヴィジョンを示す、その役には立っている。
だけど毎夜の死の夢にはもう限界だった。
ちょうどあのときのような蒼穹が雑居ビルの上に君臨している、わたしはもう一度、できるかどうかなんか構いやしない、また神様を呼び出すことにした。
わたしは丹田に生命エネルギーを溜め、言葉がその周波数を保てなくなり言葉ではなくなっても、秋葉原界隈を超えて無限に広がる波動となるべく、また咆哮した。
「神様、もう死にたくありません! 普通に生きていきたいのです!」
声の振動が立っている雑居ビルの屋上から、同心円を描いて広がってゆくようだった。
そして、振り向けば神様が立っていた。
「お嬢さん、それは済まなかった。わたしとしては、お嬢さんにたくさんの迷える羔を救って欲しかったんだが……。ただ、占いを禁じている身としては言いづらいことではあるのだが、お嬢さんの占いが当たるようになったのはわたしの仕業ではない。純粋にお嬢さんの力量が上がったのだよ」
……そう、なんですか……。
「そういうわけで、タロット占いに関してはわたしは奇蹟を起こして助けられないんだ、お嬢さんを。だから何かほかに望むことはあるかな? 叶えてあげよう」
そうね……。
「焦らずによく考えて」
「うーん、適度に辺鄙な山里かどこかで、占い師の仕事をしつつ、風景や書物を愛でたり、音楽を聴いて毎日を穏やかに過ごす、というのは駄目でしょうか?」
とたんに神様は大笑いした。
「そういうのを神仙の楽しみという。人間なら人間らしく、〈ルラーシュ〉で占いを続けて贅沢な占い師の暮らしを望むがよかろう。悪夢は昨晩で終わり」
なんとなく納得のいく言葉だった。
呵々大笑しながら、神様は少しずつ秋葉原の空気に入り交り、夕陽の光と交代するように消えてしまった。
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