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「そっかそっか。まぁ、別にいいよ。名前、好きなだけ呼んでくれたらいいからさ」
そんなことをおっしゃったブラッド様は、私の肩を抱いてくる。……な、なに、この人……? 馴れ馴れしすぎませんか? そう思ったけれど、声にはならない。怖かった。拒否して、もしも暴言を吐かれたらどうしようか。そう思って、しまったから。
「……フライア? 何をそんなに、怯えているんだ?」
きっと、私の身体の震えがブラッド様に伝わったのでしょう。ブラッド様は、そんな風に私に声をかけてくださいます。……怯えて、いるのが、伝わってしまったんですよね。傍から見ても、そう見えてしまうんですね。
「……べ、別に怯えてなんて……」
だけど、私は嘘を言った。弱みなんて、見せたくなかったから。だから、私は嘘をついて塗り固める。自分自身にも、嘘をつく。まだ、大丈夫だと。
「怯えてるって。俺、怖い?」
そんな私を見て、ブラッド様はそんなことをおっしゃる。だから、首を横に振る。怖くない。だから……暴言なんて、吐かないで。私のことを、罵ったような目で見ないで。そんな意味を、込めていた。
「……どうみても、怯えているんだけどなぁ。王妃として堂々と振る舞っていた時とは、大違いだな」
ブラッド様は、そんなことをおっしゃって、私の髪を手で梳かれる。……やめて、触れないで。そう思うのに、何故か声が出なかった。きっと、ブラッド様も私に失望された。私は、ふとそんなことを思ってしまっていた。
「……まぁ、いいや。フライア、ちょっと顔を上げろ」
その後、そんな風にブラッド様に声をかけられて、私はゆっくりと顔を上げた。すると、ブラッド様の真剣なお顔が視界に入る。……どうして、そんなお顔をされているの? 私は、そんなことを思ってしまう。
「フライア。お前は……今日から、ヴェッセル王国の王妃なんかじゃない。ただの、フライアになるんだ。……もう、何にも怯えなくていいんだぞ」
「あっ……」
ブラッド様は、私の頬に片手を当てると、そんなことをおっしゃった。その手のぬくもりが……私の心を満たしていく。久々に、温かい手に触れた。私は、そんなことを思ってしまう。この手のぬくもりを、ずっと忘れたくない。無意識の内に、私はそう思っていたのかもしれない。
「……はい」
期待、したい。
この人だったら、信じてもいいかもしれない。
私の心は、そんな風に頭に訴えかけていた。
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