1 川田

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仕事の速い人だと気付いたのは、他のバイトの人と入ったときだった。 他の人と比べ、坂上さんと入ると仕事が速く片付いていく。 そして、余った時間には掃除を徹底していて…何と言うか…坂上さん曰く、ギャップ萌え? 「友くんどうかしたあ?そんな見つめられたら愛が芽生えちゃうじゃ~ん!」 ケタケタ笑いながら、目を細めている。 何だか…いつも楽しそうな人だ。俺もちょっと笑う。 「坂上さんは、他でもバイトしてるんですか?」 モップを片手に尋ねると、悩みだしてしまった。 「これは…友くんがオレに興味を抱いた瞬間…照れちゃうよ~」 まあ…変わった人だよな、と改めて思う。 「友くんさあ、なんでバイトしてんの~?部活は?」 「してませんよ。ちょっと欲しい時計がありまして」 着々と掃除をこなしながら、たわいもない会話を繰り返す。おかげで、バイトの時間はあっという間に終わるので、実は助かっていたりもする。 「あ、友くん上がりだよ~またねえ」 「お先に失礼します」 「はいはいまたねえ、おちかれ~」 陽気に手を振る坂上さんに、ちょっと笑った。 バイトを初めて3ヶ月もたつと、だいぶ仕事にも慣れ、坂上さんの扱いにも慣れてきた。 半年くらいバイトを続ければ、欲しい時計が手に入る。受験は、予備校に通っていて、合格ラインをキープしていた。まあ、真面目なのが取り柄だし。 その日は予備校が終わってから、友達と会話をしていて帰宅がいつもより遅くなっていた。10時を回ったか? 俺は自転車に乗り、夜道を急いでいた。風は冷たく、冬を感じさせる。 俺は、小さな公園にいた坂上さんに、気付いた。金髪が街灯に反射して、目に入ったのだ。誰かと話をしている。 今日は坂上さん、バイト休みだったっけ、とふと思いながら自転車を止めた。 坂上さんは、スーツ姿のサラリーマンに詰め寄っている。 見ていても仕方がないのに、何だかただならぬ二人の様子に、視線が離せなかった。 坂上さんは、相手のスーツを掴み、何かを必死に話しかけていたが、相手はそんな坂上さんの手を振りほどき、歩き去ってしまった。 何だろう。何を話していたんだろう。
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