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イリアはアイリスの魔術訓練部屋から出ると、アレックスの執務室を訪問した。
「——アレックス様、イリアです」
執務室の扉をノックした後、イリアはそう告げた。
『入って』
「失礼いたします」
イリアは部屋に入って扉を閉めると、その場に片膝をついた。
「——ミラ、お疲れ様。アイリスの調子はどう?」
アレックスはイリアのことをあえて別の名前で呼んだ。
「はい、素質はあります。しかし、根性がないというか……」
「はははっ。最初はそんなもんだよ。しばらくイリアは僕のおつかいであっちの世界に行ってるから、アイリスの教育は頼んだね」
「はい、お任せください。姉上の代わりにアレックス様のご希望通りの娘に仕上げてみせます」
「頼んだよ。しばらくイリアとして大変だと思うけど、それなりに振る舞いには気をつけてね。ミラの荒々しい性格は悪目立ちするから」
「申し訳ございません。慣れておりませんので、つい……」
公にはされていないが、イリアとミラはハミルトン家の双子の姉妹で、2人ともアレックスの従者だ。
イリアはアレックスの命令で『イアン』という架空の使用人に変装し、いろんな仕事を請け負っている。
一方のミラは、イリアがイアンとして行動している間だけ、イリアの身代わりになり、それ以外は自由気ままに生活している。
ミラは主人のアレックスの前だけでは丁寧な振る舞いを見せるが、それ以外は悪役令嬢そのものなので、イリアは手を焼いていた。
2人の秘密を知っているのは今のところ、ハミルトン家とアレックスだけだ。
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