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驚き、顔を上げると、自販機の明かりに照らされた雄陽と目が合った。その目は先程とはうってかわって熱気を帯び、まるで獲物を狙う獣のように俺を捉える。雄陽の匂いも強まった。その匂いの影響で、一瞬だけ頭の中が白くなる。
「嫌だったら、この前みたいに振り払っていいから」
その隙に右肩にも手を置かれ、そのまま背中を自販機に押し付けられる。脳内の血流が早まり、再び俺の中から何かが湧き上がる感覚を覚えた。身体中が熱くなる。だけど、そんな俺の目は、獣のように光る雄陽の目をずっと見据えていた。
「匂いもだけど…その目もいいな」
雄陽が低い声でつぶやくと、俺との顔の距離を徐々に詰めてきた。
何をされるのかは容易に想像がついた。一時の欲情に任せずに逃げるべきだと思ったが、一方で、全身を熱くして嬉々として迎え入れようとする自分もいた。
「本当に…いいんだな…?」
雄陽の囁きが聞こえて数秒後、俺と雄陽の口が重なった。なんとなく目を閉じる。
よく恋愛小説とかで、電気が走るとか腰が砕けるとかそんな表現を見かけたが。実際のところ、ただ相手の唇の感覚があるだけで、それ以上のことはないものだなと思った。
「…ふっ…」
そのまま唇を舐められ口内に舌を入れられても、ぬるっとした感覚に違和感を覚えた程度だった。むしろ、外でそういう異常な行為をしているという背徳感と、雄陽の強まる匂いで欲を刺激されていった。
思わず、両手で挟むように雄陽の頭をつかみ、俺も応えるように舌を動かした。2つの舌が絡み合う。
どれくらい経ったのかわからない。この行為がほんの一瞬だったのかもしれないが、俺は息苦しくなって顔を離した。
改めて雄陽の顔を見上げる。俺はこの男に初めての唇を奪われたのかと思うと、途端に恥ずかしくなって胸が締め付けられ、視線をそらした。
「俺は紀人が好きだ」
雄陽の声が俺の胸に響く。
「最初は、俺がアルファで、紀人がオメガだから、一時的なものだと思ってた。けど…」
俺のほほに手を添えられ、自然と俺は雄陽の方向に顔を向けられる。
「けどやっぱり、紀人とずっといたいし、信じたいと思ったんだ。公演が終わっても、これからも」
「…どうして…」
「わからない。ただ、そう思えたから」
なんでこんな俺なんかを…そういう気持ちでいっぱいだった。けど俺も、こんな暗がりにしかいない俺を、明るく照らそうとするこの男を信じてみようと思った。
「…俺も、信じる…」
「紀人」
「俺も、好きだ。雄陽」
伝えた。雄陽の目が微かに見開かれる。そして、その顔に微笑みが浮かぶ。俺もほほを緩めると、再び口が重なった。
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