暗がりを照らされる

2/2
104人が本棚に入れています
本棚に追加
/23ページ
 驚き、顔を上げると、自販機の明かりに照らされた雄陽と目が合った。その目は先程とはうってかわって熱気を帯び、まるで獲物を狙う獣のように俺を捉える。雄陽の匂いも強まった。その匂いの影響で、一瞬だけ頭の中が白くなる。 「嫌だったら、この前みたいに振り払っていいから」  その隙に右肩にも手を置かれ、そのまま背中を自販機に押し付けられる。脳内の血流が早まり、再び俺の中から何かが湧き上がる感覚を覚えた。身体中が熱くなる。だけど、そんな俺の目は、獣のように光る雄陽の目をずっと見据えていた。 「匂いもだけど…その目もいいな」  雄陽が低い声でつぶやくと、俺との顔の距離を徐々に詰めてきた。  何をされるのかは容易に想像がついた。一時の欲情に任せずに逃げるべきだと思ったが、一方で、全身を熱くして嬉々として迎え入れようとする自分もいた。 「本当に…いいんだな…?」  雄陽の囁きが聞こえて数秒後、俺と雄陽の口が重なった。なんとなく目を閉じる。  よく恋愛小説とかで、電気が走るとか腰が砕けるとかそんな表現を見かけたが。実際のところ、ただ相手の唇の感覚があるだけで、それ以上のことはないものだなと思った。 「…ふっ…」  そのまま唇を舐められ口内に舌を入れられても、ぬるっとした感覚に違和感を覚えた程度だった。むしろ、外でそういう異常な行為をしているという背徳感と、雄陽の強まる匂いで欲を刺激されていった。  思わず、両手で挟むように雄陽の頭をつかみ、俺も応えるように舌を動かした。2つの舌が絡み合う。  どれくらい経ったのかわからない。この行為がほんの一瞬だったのかもしれないが、俺は息苦しくなって顔を離した。  改めて雄陽の顔を見上げる。俺はこの男に初めての唇を奪われたのかと思うと、途端に恥ずかしくなって胸が締め付けられ、視線をそらした。 「俺は紀人が好きだ」  雄陽の声が俺の胸に響く。 「最初は、俺がアルファで、紀人がオメガだから、一時的なものだと思ってた。けど…」  俺のほほに手を添えられ、自然と俺は雄陽の方向に顔を向けられる。 「けどやっぱり、紀人とずっといたいし、信じたいと思ったんだ。公演が終わっても、これからも」 「…どうして…」 「わからない。ただ、そう思えたから」  なんでこんな俺なんかを…そういう気持ちでいっぱいだった。けど俺も、こんな暗がりにしかいない俺を、明るく照らそうとするこの男を信じてみようと思った。 「…俺も、信じる…」 「紀人」 「俺も、好きだ。雄陽」  伝えた。雄陽の目が微かに見開かれる。そして、その顔に微笑みが浮かぶ。俺もほほを緩めると、再び口が重なった。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!