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感謝(前半)
今年もまた、異星種族から人類に向けて、
挨拶の動画が公開された。
少女と黒猫が混ざったような生き物が、
感謝を示す赤いバラの花束を手に、
愛らしく微笑みながら佇んでいる。
彼女達は量子頭脳への人格転移を達成し、
高度演算能力や共有人格形成能力を得た、
銀河帝国の最先進種族のひとつだ。
そんな種族がよくするように、彼女達もまた、
ネコとコウモリの混血みたいな基本個体の
面影を残す、人間型の分離個体を使っていた。
通常、分離個体は威圧的な印象を防ぎ、
好感度を高められるよう設計される。
具体的には自種族の特徴を備えつつ、
相手種族の基本的な遺伝子型を持った、
魅力的な若年個体の姿を取ることが多い。
そこで……可愛い猫耳少女というわけだ(笑)。
とはいえ個体の寿命も克服し、
経験や認識を共有できる各種の量子頭脳や
多様な生物・機械的身体を乗り換えながら、
悠久の時を生きる種族のことだ。
彼女達自身にとっては年齢や性別の違いなど、
あまり意味を持たないのかもしれないが……。
彼女は語り始めた。
『人類の皆様。
かつて私達は〝先帝〟種族の命により、
皆様の祖先を含む様々な発展途上種族の
文明発達を、陰ながら支援しました』
公式声明ではあるが、親書に近いものなので、
言葉も易しく、分かりやすい。
『しかし、その後帝国では、
〝中枢種族〟と呼ばれる皇帝側近種族を初め、
帝国建設に功労のあった軍事種族の多くが、
腐敗と抗争に陥ってしまいました』
『彼女達は〝先帝〟種族を傀儡化したうえで、
新興の技術・産業種族を抑圧し、
構成元素の異なる銀河系外周種族からも
収奪を行ったのです』
いつの時代も、どこの国でも、
技術革新や歳月の経過で経済・社会は変わる。
それに応じて適切な政策をとり、
健全に発展を続けるのは大変なようだ。
『彼女達はまた、途上種族を配下にするため、
私達の文明支援計画に対しても、
組織への浸透や職員への買収、脅迫により、
非人道的な干渉を加えるようになりました』
当時の私達には知る由もなかったが、
危険な軍事技術の供与から紛争の扇動、要人の暗殺、
遺伝形質の狂暴化まで、相手種族の存亡も顧みず、
かなりえげつない手段を使っていたらしい。
『そのため、帝国の健全な繁栄を願う私達は、
厳しい制裁も覚悟のうえで改善の請願を行いました。
しかし、すでに永らく抗争状態にあった
軍事種族間では、責任の所在を巡って内戦が勃発し、
それに巻き込まれた〝先帝〟種族も滅亡して、
帝国は崩壊の危機に直面してしまったのです』
『この事態を受けた私達は、
友好種族と共に帝国を救うため、
〝先帝〟からの亡命者達に指導を仰ぎつつ、
人類を含む様々な種族に助けを求めました』
実を言うとそのあたりの経緯については、
色々な噂が流れている。
そもそも戦前からの〝先帝〟亡命者達が衝突を誘発し、
腐敗種族の共倒れを図ったなどという説も聞く。
だがその内戦では〝先帝〟種族自身も滅亡し、
一時は帝国の存続さえ危うい状況になっている。
何より腐敗種族の自業自得という面が大きく、
真偽のほどは定かでない。
『ただ私達は、文明発展を助けるための
神話において悪役を演じたこともあったので、
皆様は突然現れ、伝説の悪魔にも似た
異星生物である私達を恐れました』
それに加えて旧帝国派種族のテロなどもあり、
確かに当時の世界は大混乱となった。
もっとも私のようなSF愛好家から見れば、
とても可愛い部類の異星人だったのだが……(笑)。
『しかし、そんな私達の依頼に対し、
証拠に基づき真実を確かめた皆様は、
過去からの偏見に囚われず、
誠意をもって私達に協力してくださいました』
『最も成功した若き種族の信頼を得た私達は、
さらに多くの種族から支持を受け、
平和回復と国家復興を果たすことができたのです。
また、皆様の惑星政府が模範となって、
多くの種族に民主政体が広まり、帝国自体もまた、
帝政から民主制への移行を決定できました』
(後半に続く)
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