いざ! 入寮日!

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★続続・入寮式と寮母と規則 「後は細々した部分かな。 談話室の利用は22時まで。テレビも自由だけれど、もめ事厳禁。あと、そこに置いてある書籍の貸し出しは可能だから、管理簿に記載して譲り合いで。最長1週間だからね。 購買の利用は18時まで。土日はお休みです。 ミーティングルームの利用は申請すること。俺が許可して、鍵を渡す形になるから。 後は部屋の事。部屋を空ける時は施錠すること。鍵は部屋の引出しを確認して。貴重品は鍵のかかる引出しで管理してね。この引出しの鍵も、部屋の鍵と一緒にあるから確認。開かなかったり、鍵がなかったら俺に連絡して。 部屋の清掃はその部屋の生徒が自分ですること。掃除道具は各階にあるからいつでも使って。でも、あまり遅い時間は迷惑だからダメだよ。ゴミの分別も自分たちで。分からなかったら俺に聞いて欲しい。ゴミ出し表がゴミ箱の上に貼ってあるから、それを見て。分別しなかったら、補講だから」 「補講ですか?」  ゴミ出しの補講って、聞いた事がない。  だが佐藤はとてもいい笑顔をしている。でもこれ、ちょっとマジな感じだ。 「ペットボトルの出し方、ビン、缶の出し方。燃えるゴミと燃えないゴミの分別の座学と、実習」 「……はい」  あ、怖いし凄く地味で凄くしんどそう。でも、けっこう難しいのがゴミの分別。改めて「これは何ゴミ?」と言われると困る事もある。  特に駿介、苦手そうだから気をつけようと仁科は思った。 「後は、寮の連絡アプリを入れて全員登録しておいてね。寮からの急な連絡もあるかもしれないし。あと、休日に出かける時も簡単な連絡は欲しいんだ。特に電車やバスに乗っての遠出の時は。何かあったときに困るしね。バツの数もここから見られる。当番表と献立も確認できるよ。 後は、必要な書類の事前提出が終わってない人は出すように。以上、駆け足だけれど寮の説明を終わります」 「有難うございました!」  全員が一斉に声を揃えて会釈。佐藤はにっこりと嬉しそうに笑ってくれた。  一同はそのまま寮の食堂へ。けっこう大きくて綺麗な食堂は既に配膳がされていて、上級生が歓迎会の準備をしてくれていた。 「乙沢高校寮へようこそ!」  ちょっと野太い歓迎の声に、仁科はなんだかグッとくる。新しい生活が始まるんだという実感がジワジワ湧いてくる。こういう経験が乏しいから余計にだろう。  誘われるまま、仁科は駿介と一緒に空いている席に座る。上級生がジュースやお茶を注いでくれて、佐藤も尾見も適当に座って、改めて乾杯の運びとなった。  辺りを見ると、丁度向かい側に同じく1年生っぽい人が座っている。  ゆるくウェーブのかかった髪で、前髪が長い。分け目の関係か、片目だけが見えている。ちょっと俯き加減だし、猫背で小さくなっている。 「隣の部屋の人だよ~」 「え?」  そういえば来たばかりで、両隣へ挨拶とかしていなかった。  そう思ったら声をかけるべきなんだけれど…………全身で話しかけんなオーラを出しているんだよな。 「あの……」  勇気をもって話しかけてみた。だが、返ってくるのは無言。これ、どうしたらいいのだろう。 「えっと……俺、417号室に今日入寮した、仁科薫です。よろしく」  伝えた瞬間、今まで何も映していないんじゃないかと思えた目に突然意志が宿り、グワァァ! という感じで睨み付けられた。 「そいついつも五月蠅い! オレ、静かじゃないと寝れないし集中できない。なんとかして!」 「な……なんとかと言われましても……」  彼は駿介を睨み付けているのだが、当の駿介がどこ吹く風だ。こういうのを、暖簾に腕押しというのだろう。 「あの……注意、しておきます」 「お願い。あっ、オレは戸辺梓(とべあずさ)。梓って呼んだら呪い殺す」 「う、ん」  何だろう、すごく個性的だ。  戸辺はそれだけを言い終えると再び少し俯き加減になり、目から光を消してもくもくと食べ始める。主に、野菜少なめで。  大丈夫かな、ここの生活。
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