砕けたガラス玉、砕けない友情。

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砕けたガラス玉、砕けない友情。

 トゥエルブは地におり立ち唖然とその様子を眺めていた。予告状通り盗むことができなかった、しかもガラス玉は破壊された。  水晶のお告げを破ってしまったのだ。そしてイレブンには仲間じゃないと言われた。  色んなことが重なりうなだれていると、ふいにトゥエルブのケータイに通知が入る。今はそんな気分じゃないと言いたげに開くと、もう一人の助手ナインからのメッセージだった。彼女は今アジトにいるはずだ。 『急にあんたの水晶が光って「ありがとうトゥエルブ。あなたが一時的にでもガラス玉を盗んだことにより、二人が結束し宇宙が平和になったわ」って文字が浮かびあがってるんだけど、なにこれ? 長いし、普通に意味不明で怖いんだけど……』  それを読み終わってまた読み返す。しだいに、トゥエルブは様々な感情がこもった涙を流す。  本当にイレブンとケイソ、いやノウェンベルとSiが互いを思いあった時、それはネットオークションにかけた物を、怪盗トゥエルブという脅威から守るための心だったのだ。  つまり、俺は二人の当て馬。そうなげき悲しんでいるとイレブンが裏口から出てきた。 「トゥエルブ、無事で何よりです。上からガラス玉が落ちた音がしたのですが……」  イレブンがトゥエルブの足元を見ると、木っ端微塵になったガラスの破片が散らばっていた。イレブンはトゥエルブが怪我をしていないことを確認してから、言葉を続ける。 「アジトに帰りましょう。あのガラス玉のことは、Siさんに説明しておきました。ちゃんと信じてくれましたよ。あれは、商品が破損したから出荷不可という体でフリマアプリに申請するそうです」 「良かったな……」  トゥエルブのあまりうれしそうじゃない反応にイレブンは首をかしげる。 「どうされたんです。そんな浮かない顔をして」 「俺は、なにも盗めない怪盗なんだなって……」 「何を言っているんですか、怪盗モノでお約束である『世界を脅威から盗みだす』という実績を解除したんですよ」  ゲーム脳のイレブンの言葉にトゥエルブは苦笑いで返す。イレブンはトゥエルブの腕を引っ張る。 「そういえば、この屋敷には他にも色んな掘り出し物が眠っているようなので、帰ってから一緒に彼の出品を見てみませんか?」 「イレブンは俺が、仲間じゃないって言ってたのに良いのか?」  イレブンはそこを気にしていたのかと言いたげな表情を浮かべてから、言葉を探した。トゥエルブが思いのほか繊細であることを、忘れていたのだ。 「誤解があるようですが、トゥエルブとフリマアプリ仲間じゃないって意味です。僕がフリマアプリをやってないなんていうSiさんの先入観を取り払うためだけの言葉ですよ。トゥエルブは、僕の怪盗仲間です」  二人の認識の違いなだけだとわかったトゥエルブは、少し元気を取り戻す。 「だったら、俺もフリマアプリ始めようかな……」 「……なんか釈然としない理由ですけど、良いですよ。ネットオークションは見ているだけで楽しいですから、帰って一緒に見ましょう」 「おお!」  すっかりやる気を取り戻したトゥエルブはイレブンとともに、ケイソにあいさつをしてから帰ることにした。  しっかりと握手を交わす三人。本来なら被害者と怪盗という関係性のはずなのに、ともにフリマアプリで築きあげた友情という奇妙で愉快な空間を作り上げていた。  二人は車でアジトに向かう。怪盗に似合わないと思っていた朝日が二人を歓迎する。それは、ブラックホールの脅威から地球を盗んだご褒美のような美しさだった。  トゥエルブとイレブンは、ともにフリマアプリを楽しむ。そんな未来への期待を胸にだいて帰っていく。  そして二人が『売買が成立すると惑星が一個消滅する手鏡』をフリマアプリで見つけてしまったのは、また別のお話。
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