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編集部にて。
愛梨は編集部にいた。
時間はもうすでに10時を過ぎ去っていた。
最初は黒木と二人で雪華が来るのを待っていたが、雪華が訪れる気配は一向になかった。
黒木は溜息を吐き、呆れた表情で愛梨に言った。
「これ以上待っても仕方ないので、今回は白崎さんの作品で行きましょう」
「待って下さい!もう少し待ってみましょうよ。ひょっとしたら事故で遅れているかもしれないじゃないですか!?」
愛梨は慌てて黒木に言った。
愛梨自身、雪華の作品と戦わずにして連載を得ることが納得できなかった。
作品は読まれる為にある。
相手がいくら間に合わなかったと言えど、こういうかたちで連載を得ることが納得出来なかった。
「だけど、予定の時間に間に合わないとあっては作家として失格だと思うよ。締切も合わせて間に合わせるのが作家の仕事だと俺は思うけどね」
「そうですけど……。でも締切に間に合わない作家なんって、いくらでもいます。少し遅れたくらいで厳しすぎませんか?」
強い瞳で見る愛梨に黒木は何も言わず、やがて小さな溜息を吐いて小さく苦笑した。
「わかったよ。じゃあ、もう少しだけ待つよ」
「有難うございます」
愛梨は黒木にそう言った。
どうして、雪華を庇ったのか自分でも分からない。
だけど、あの時奥田に言われた言葉が彼女の中で忘れられなかった。
(どうしたのかしら……。こんなこと今までなかったのに……)
プライドが高い自分が誰かを庇うなんってことは今まで無かった。
それも同じライバル作家を。
そんな時。
バタバタとこちらに向かって走って来る音がした。
バン!!
勢いよくドアが開かれた。
そこには身だしなみを整えられていないボサボサの姿の雪華の姿があった。
雪華は黒木達の元へとやって来た。
「黒木さん、白崎さん遅くなって大変申し訳ありません」
雪華は黒木達に頭を下げたあと、強い瞳で黒木を見つめながら、手にした原稿の入った封筒を黒木の前に差し出した。
「黒木さん、原稿出来ましたので確認の方をお願いします────」
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