2.父の日のプレゼント

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***** 「何、ニヤケてんだ?」  言われて、自分の口元が緩んでいたと気づき、慌てて引き締める。 「ちょっと、思い出し笑い?」 「いいことがあった?」 「うん。今朝会った――」 「――おかーさん、味噌汁もうないの?」 「あるよ」  亮からお椀を受け取って、キッチンに立つ。 「智也と真は?」 「いい」と短く返したのは、真。 「あ、もらうかな」と言うと、智也はずずっと残りをすすって、カウンター越しにお椀を差し出す。  亮のお椀と引き換えに受け取る。 「ご飯は?」 「食う」  今日の晩御飯は、炊き込みご飯となめこの味噌汁、鯖の塩焼き。  昨日、お寿司を食べ過ぎたから、今日はあっさりだ。  智也はお寿司を食べていないけれど、お父さんと味の濃いつまみでお酒を飲んだから、今朝は口の中が変な味がする気がすると言っていた。 「真、ご飯は?」 「少しだけ」 「俺も!」と、亮が茶碗に残ったご飯をかきこもうとする。 「亮はだめ」 「え、なんでぇー?」 「ユニフォームがきつくなってきてるでしょ」 「……はーい」  しょぼんと肩を落とし、亮は箸ですくったご飯を口に入れる。 「そんな、ヤバい感じ?」 「うん。丈は長いのに、お腹とお尻がきつそうで。今のより大きいサイズはないから、今年はなんとか着てもらわないと」 「そっか」 「亮はお菓子を食べ過ぎなんだよ」と、真が茶碗を差し出しながら言った。 「あとは、もっと動くか」 「真だって、お菓子食べてるじゃない」 「俺は太らないから」 「うわっ! むっかつく」  事実がゆえに本音が漏れる。
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