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旧校舎の泣き子さん
…───ねえねえ、こんな噂知ってる?
旧校舎の泣き子さんの噂。
夜な夜な旧化学室から聞こえる啜り声。
何が悲しくて延々泣き続けるんだろう。
どうして泣いているのかは誰も知らない。
話しかけたら連れて行かれちゃうって噂。
深夜0時を過ぎてから聞こえてくるらしいよ。
見廻りの風紀委員が何度も聞いたんだって。
「その正体は?」
また新たに意図的に増やされたであろう書類に目を通しつつ訊けば、言葉の代わりに溜息が返ってきた。
「それが判んないから調べてくれって哀原に頼んでんだろ」
PC用メガネをかけた困り顔で見つめてくるのは、あの日から一ミクロンほど親しくなった羽崎。
「湊叶きゅん今日も顔面天才すぎ。世界遺産認定案件なんだけど」
そんで首に藍色の首輪を着けて向かい側の席に座ってんのは堂々付き纏うようになった貴文。
首輪と貴文呼びは毎日ノイローゼになるほど懇願され渋々と了承したもので断じて俺の趣味でも意思でもない。一息。
ちなみにこの部屋は羽崎と閉じ込められたあの部屋だ。どうやらココは貴文の所有してる部室の一つらしく、最近はこの部屋を溜まり場や休息したい時などに使っている。
もちろん悪趣味なモニターもベッドも外し、仮眠用のベッドや机やPC等の普遍的な空間へと一応リメイクされた。
…この間も未だにごね続ける羽崎にどうしてだと訊けば「おばけとかそういう系ムリ」真顔で返された。
「真面目な顔でなにを……マジ?」
「大マジ。おばけ怖いとかぶりっ子総隊長の設定なのにな? それか真都とか副会長とか間宮とか…」
メガネを外し、軽く鼻根を抑える羽崎に嘘では無く事実なんだと悟った俺も鼻根を抑えた。冗談も程々にしろよ。
「……つまりソレがマジモンの霊なのかを調べればいいってワケか」
「えっなになに調べに行ってくれんの? 地雷属性だけどそんな哀原は愛してる〜!!」
「等価交換で生徒会役員の簡潔な情報と噂の詳細な。そんで貴文はなに腰に巻きついてんだ蹴んぞ」
「もう蹴ってる!! 好!!」
気持ちの悪い笑みを浮かべる貴文は適当に足で踏ん付けとき、旧校舎の泣き子さんとやらの噂に耳を傾ける。
深夜0時を過ぎてから泣き声が聞こえてくるらしく、中性的な声で性別は判断できていない。
場所は噂のまんま旧校舎で場所は理科室。
「あ、そ。それじゃ今夜行って来るわ」
「湊叶きゅん一人で大丈夫? オレも行くよ? それに噂通りだったら連れ去りとかさ」
「連れ去りの張本人がどの口で言ってんだ。あと俺軟弱じゃねえし」
全ての書類を片し腕を伸ばすと、貴文が気色悪い笑みで「そういう子ほどヤ」と言ったところで鳩尾ストレートを食らわした。
「一応これドーゾ」
手の内に軽く投げられたのは小型の黒い鉄物質の塊。
訝しみの視線を羽崎に向ければ言わば発信機のような物だと掻い摘んで説明された。
「身の危険感じたら横のボタンすぐ押せよな。そしたら速攻で向かうから! 田中が」
「この変態が来る方が危険だと思うの俺だけ?」
性格上、進んで面倒事を引き受けんのは性に合わねえけどこの数日でつま先程度には絆されたみたいだ。
それにその旧校舎の泣き子さんは普通に気になんだろ。
実際に居たら心臓ぐらいはまろび出るかも知んねえけどな。なんて。
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