a coffee break

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わざわざ言う事でもない。 俺の目の前でカフェオレに更に砂糖を追加する激甘党の幼馴染みは、それはもう人生の全てがモテ期なんじゃないかっていうくらいモテるのだ。 初めて会ったのは多分幼稚園…か小学校低学年の時。その時から既に片鱗はあった。 家が特別近い訳でも無いこいつとは遊ぶ公園が同じで、気付けばクラスが違っても放課後は必ずと言っていい程一緒に遊んでいた。 こいつが気付いていたかは分からないが、いつからか俺たちが呑気に砂場で遊んでいる姿を物陰から見つめる子達が増えていったのは確かだった。 俺は幼いながらにその視線が誰に向けられているのか分かっていた。 そして案の定、学年が上がるにつれ彼が誰かに呼び出されたり贈り物を手渡されたりする回数が増えていった。 中学にもなればもうあからさまで、大勢が自身の性を強く意識し始める中、俺の幼馴染みは生徒達の憧れの的となっていた。 容姿が他と比べて整っているからだろうか。人よりもちょっと成績が良いからだろうか。体育の授業でちょっと活躍が多いからだろうか。 人を測る指標なんてもっと色々ある筈なのに、学校という大きくて小さな箱にまとめられた俺達にはそんなことが他人の素晴らしさを測る定規みたいになっていて、その風習にもう俺は辟易していた。 くだらない。 全くもってくだらないことだ。 なのに彼へ告白する生徒は後を絶たず、一度敗れても再度挑戦する生徒も少なくなかった。 頬を真っ赤に染めて、時間をかけて書いたのだろう手紙を握り締めて。ある子は直接彼を呼び出し、また別の子は彼の靴箱にそっと想いを忍ばせた。 あんな光景姉貴の漫画でしか見た事が無かったが、本当にあるんだなと初めて見た時は感心すらしたもんだ。 また、彼にではなく俺に代理を頼んでくる奴も少なからずいた。面倒で仕方無かったが、断る方がもっと面倒なことになると俺の野生的直感が告げるので俺は頼まれる度に手紙やら連絡先が書かれたメモを彼に渡した。 その度に「…またか」と明らかに怪訝な顔をする幼馴染みに俺は何処かで安心感を抱いていた。 どうせまた断るのだろうと。 それがいつからだろう。 高校に上がるとほぼ同時に幼馴染みは告白を悉く受け入れるようになっていた。 初めこそ驚いたが、冷静に考えてみれば今までがおかしかったのだ。 思春期のお年頃で色んな人に好意を寄せられて、なのに誰とも一切付き合おうとしない。 それどころか毎日毎日飽きもせず、ゲームか宿題の話くらいしかしない友達と居ることを選んでいた今までが。 一人目の彼女が出来たと報告を受けた時。 遂にこいつにも春が来たか。いや、ずっと無視していた春を漸く受け入れたのかと納得して俺は一人帰路に着いた。 ずっと一緒に居たトモダチに恋人が出来た。うん、よくあることだ。別にまぁ、いつもと変わらない。少しゲームする時間が増えるだけだ。 その後暫く一人で帰る日々が続いたが、事態がまた動き出したのはそのたった一ヵ月後のことだった。 「彼女と別れた」 「何とまぁ」 「そんで、新しい彼女が出来た」 「ニキビみたいに言うな」 そんなポンポン出来てたまるか。 しかしこいつなら有り得ないことではない。 こいつに一人目の彼女が出来た時、他の子達は諦めたかと思っていた。 しかし恋煩いとは中々しぶといもので。 いつか恋人とは別れるだろうその時を、彼を狙う子達は虎視眈々と待ち続けていたのだ。何とも逞しい限りである。 そうして一人目と別れて二人目、三人目と彼は誰かと交際を続けていった。高校生活で一ヶ月も途切れたことが無いんじゃないかなぁと思うけど、そりゃ今までのモテっぷりを見ていれば彼と付き合いたい子が後を絶たないのは何ら不可思議ではない。 寧ろ俺の疑問は別のところにあった。 「また彼女が出来た」 「あのさぁ…」 「なぁに」 「何で断らないの?」 どうせ別れるのに。そしてその度に、愚痴を聞かされるのは俺なのに。 疑問は尽きなかった。 何故恋人が出来ても三ヶ月ともたないのだろう。 何故告白される度に受け入れるのだろう。 何故、毎回別れる度に何人目か分からない元カノの愚痴を俺に聞かせるのだろう。 好きな子に告白されたのなら分かるよ? そりゃ嬉しくって付き合うよな。俺には分かんねぇ感情だけど。 でもこいつの場合は違う。 告白されたから付き合う。そんな感じ。 物凄く悪い言い方をするならば、トイレットペーパーが無くなったから買う。みたいな。そんな感覚に思える。 恋人ってやつを生活必需品に例えていいものか分からないけどさ、でも本当にそんな感じがしたんだ。 恋人が出来た時、彼は彼なりにその子を大切に扱った。少なくとも、端から見ているとそう見えた。 だけど何となく気付いていたことがあった。 こいつはきっと、付き合ってきた誰のことも本当には好きじゃないって。 告白されたから、好意を持ってくれたからある程度は好きだったのかもしれない。推測だけどね。 だけど多分、本気の本気では無かったんだろうと思う。 それを感じ取ったのか、別れを告げるのは大抵彼女達からの方だった。 不毛だな。どうせまた同じ結果になることは目に見えているのにと、彼からの報告を受ける度に胸に穴が開いていくようだった。 なのに何で断ることをしないのか俺には不思議でならない。だって不誠実じゃん。 中学の頃は、そうじゃなかったじゃん。 そうして俺の疑問は一向に解消される気配の無いまま、大学生になっても幼馴染みの奇行は続いていた。
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