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プロローグ
厚手のカーテンによって、外からの明かりは一切入ってこない。真っ暗な室内を照らすのは、両手で握るたった一本の蝋燭だけだ。
部屋の片隅にうずくまる。息を潜め、周囲を伺う。窓も扉もしっかりと閉まっている。人どころか、小動物だって入ってくることは出来ないだろう。
「終了時間まで、もうあと十数分ってとこか……」
残っている蝋燭の長さから、おおよその経過時刻を推測する。肝試しに近いゲームとはいえ、正直言って気持ちが悪い。もともとお化けだの幽霊だのが苦手な男が、安堵の溜息をついた時だ。
廊下から軋むような音が聞こえる。それは徐々に男がいる部屋へと近付いているようだった。
「嘘だろ?」
男は体を丸めるようにして、縮こまる。物音ひとつしない静寂の中、自身の心臓の音だけがやけに響くような気がした。
緊迫した雰囲気の中、鼓動が早まっていく。耳の後ろを流れる血液の音までもが聞こえるようだ。
その時、急に室内が真っ暗になった。
「っ!」
声にならない悲鳴を上げる。手に持つ蝋燭には未だ頼りない炎が揺らめいている。
それにも関わらず、何故か灯りが目に入らないのだ。
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