王道転校生

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すると、そのやり取りを見ていた千景に「知り合い?」と尋ねられた。 その言葉に紫さんは、ああ、と頷いていっちーたちの方を向いた。 「すみません、ご紹介が遅れました。私はこの食堂のウェイトレスとして働いております、百瀬(ももせ) (ゆかり)と申します。以後お見知り置きを」 そう言って微笑みと共に優雅に一礼する。 その姿に、ほう…とあちこちからため息が上がった。 周囲をチラッと見てみると、周りの生徒たちはこちら、と言うより紫さんを、熱のこもった視線で見つめている。 まあ無理もないなwww 紫さん、育ちの良さそうな超絶イケメンだもんなwww この中には、紫さんに会う為に毎日食堂に通いつめている者もいるらしい。 そんな多くの生徒を魅了する超絶イケメンと、平凡代表とも言える俺が、何故こんなにも親しげなのか… 俺は、そうなるに至った経緯を思い出すため、過去の記憶を遡った。 ーーーーーーー あれは丁度一年ほど前の、俺たちがまだ入学したての一年生だった頃だ。 その時俺は、とある数量限定のプレミアムグッズがどうしても欲しかった。 そのグッズは結構な金額だった為、一ヶ月分の食費代からも捻出し、なんとかお目当ての物をゲットした、のだが… 「あ〜…くそ、腹減った…」 月末に差し掛かった頃、グッズ代にお金を回したがために食費も底を尽きかけていて、その日はコンビニのサラダチキン一本という、なんとも侘しい昼食を摂っていた。 元々そんなに大食いでは無いものの、そこはやはり育ち盛りの男子高校生だ。ここ何日か同じ様な食事ばかりが続き、流石に空腹さも限界に来ていた。 授業も終わり、騒がしい腹の虫を宥めつつ、フラフラと放課後の校舎内を目的もなく彷徨っていると、どこからかとても食欲をそそる良い匂いが漂ってくるではないか。 気がつくと、俺はその匂いに釣られ、においのする方向へと足を向けていた。 暫く歩くと、あるドアの前に辿り着いた。 ドアの上にあるプレートを仰ぎ見ると、そこに書かれていたのは「食堂」の文字。 あれ?確か今の時間は、ここの従業員たちは休憩中では無かったか?などと思いながら、重いドアを開いた。 するとそこには、超絶イケメンなお兄さんが居て、俺は思わず「ま、眩しっっ…!」と呟き顔を手で覆った。 食堂は俺とその人だけで他には誰もおらず、静まり返っていたため、思いの外俺の呟きは良く響き、お兄さんはその声に反応してこちらに目を向けた。 「おや、キミはどなたで?申し訳ないけれど食堂は今、準備中で利用できないよ?」 そう言って申し訳なさそうな顔で笑った。 俺はその言葉に慌てて口を開く。 「あ、いや…すんません。ちょっと良い匂いがしたもんで…釣られて来ちゃいました」 ヘラっと笑いながら腹をさすると、腹の虫がクウ、と虚しく鳴いた。 その音が聞こえたのか、目の前のイケメンは数秒の間の後、ククッと苦笑した。 そしてこちらにちょいちょい、と手招きをしてきた。 なんだ?と首を傾げつつそれに素直に従い、そちらに近づくと、そこにあったテーブルの上には、なんとも美味しそうな料理が数品鎮座している。 俺は思わずゴクリ、と唾を飲み込んだ。 「こちらは私が作ったのですが、どうですか?」 その言葉に驚いて、料理から目を離し、お兄さんを見る。 「え、これお兄さんが作ったの?失礼ですけど、ここのシェフじゃ無いっすよね?」 そう言ってお兄さんの服装を見た。 白いシャツに黒のズボン。品の良いお洒落な黒エプロンと首元の蝶ネクタイ。その姿はやはり、どう見てもここのウェイトレスの制服である。 あれ?ここって専属シェフがいるから、料理を作るのはその人たちだけだったよな?まあ ここの料理食ったことないから知らんけど。 すると、その困惑に気付いたお兄さんが微笑みながら説明してくれた。 曰く、自分は見ての通りここのウェイトレスとして働いているのだが、元々は料理人を志していて、専門学校に行くお金もなく困っていたところ、この学園の理事長に拾われたのだとか。 そのため、ここのシェフに忙しい時間の合間を縫って料理を教えてもらいながらここで働いているらしい。 その話を聞いて、ああ、と納得した。 というかお兄さんはめちゃくちゃ運が良かったんだな… ここのシェフっつったら、料理の大会で世界一を取ったことのあるほどの実力者とかが揃ってるらしいし、ヘタな専門学校に行くより勉強になるだろうな。ここ絶対給料も良いだろうし。 そして現在は教わった料理を試しに作ってたらしくて、そこに俺が偶然登場したってわけか… 「すっげー旨そうっすww」 ここ最近まともな食事を摂っていなかったからか、腹の虫が大暴れしだす。 その音に、「あの、良かったら食べてみますか?」と聞かれた。 「えっ!マジっすか!!」 その言葉に俺は食い気味に返事をし、ズイッとお兄さんに詰め寄った。
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