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「こっち。すわろう」
少年には色褪せた長椅子に座るよう促して、少女は彼の正面に立った。
しばらく会話は起こらなかった。手を触れ合い、見つめ合ったままの、無言。雨の音だけが紡ぐおかしな静寂が、二人を包みこんでいた。
大嫌いな雨。大量の滴が流れていく音。今だけは、他の何も、聞きたくない。
同じ想いなのか、少女もただ、黙って少年を見つめている。ひとかけらの期待も落胆もない表情を向けて、ただ、傍にいる。
やがて、不純物のないその視線に耐えきれなくなった少年は、繋いだ手をほどかずに、正面に立つ小さな身体に顔を埋めた。
「ぼくは……ねてただけなんだ……」
何分間もの沈黙を破ったのも、少年の方。
「たたみの上で本をよんでたら、ねむくなってきて……ただそれだけなのに……起きたときには、らんが、ぼくの上にいて……」
「もしかして、さっき、けいくんを追いかけてきてた女の子? あの子がいもうと?」
少女の服に密着したまま、少年は小刻みに頭を動かす。縦に。
「……それで……ら、らんが、いきなり、口つけてきてっ……」
『けいちゃん、だいすき』
無邪気に笑う小さな生物は、誰からも愛してもらえると信じて疑わない魔法の呪文を唱え、呑気に兄の口に吸いついてきた。
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