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数時間前にも味わった、熱のこもった感触。
けれど、数時間前のそれとは違う。それは角度を変え、浅く、何度も啄んでくる。
少年は、身体から力を抜いて、目を閉じた。
────たべられてるみたい。
胸にごとりと何かが落ちる。否、底から噴き上がってきたものだろうか。
身体のど真ん中までやって来たそれは、青く澄んだ虫の形をしていた。
内側から、全身が食まれていく。そのたびに青は翳りを強め、青紫に変わっていく。
熱に慣れてきた頃、唇は離れた。
「……けいくんのきれいなぶぶんは、今、わたしにたべられちゃっただけ」
捕食を終えた少女の手が、改めて、少年の頬をやわく挟む。
「けいくんをよごしたのは、わたし。だから、もしけいくんがほんとにこわれちゃったんだとしても、それは、わたしのせい」
「きみの……せい……?」
体内の虫が、心臓のすぐ傍で蠢く。
「そう。もし、けいくんがどんなワケわかんないことしちゃったとしても、それはお父さん達のせいでも、いもうとのせいでも、けいくんのせいでもない」
絶えない雨音の中、影を背負って微笑む青い花。
一目で見惚れた少年は、ガラスドームによく似た二つの瞳に混ざる、哀しい光を見逃した。
「ぜんぶ、わたしのせいだから」
蝶が何度も繰り返す、あまりにも贅沢な響きは、哀れな蛍を簡単に蝕んだ。
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