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怪しすぎる。いや普通に怪しい。俺が全力スルーを決めようとすると。
「おや。つれないねぇ。会計殿。」
「言っただろう。さっさと解放しろ広報委員長。」
「そんな品のないあだ名で呼ぶのはやめておくれよ。彰寧」
風紀委員長さんとあの風紀委員長さんを呼び捨てにするその声。なかなかに命の冒険がお好きそうなその正体は自然と相手から見せてくれた。
「賭けに負けたか。博打うちとしての勘が鈍ったかねぇ。」
「お前もしかして、また学内で賭場なんか作ってないだろうな。」
「よよよ。彰寧の目が厳しいこと。儂も金色虎の尾は二度踏みたくはないでせう。」
「ふざけてるとまた立ち入り検査を強行するが?」
あの風紀委員長さんをおちょくれる……?
俺は今、夢を見ているのだろうか。信じられない。
目の前のどう見ても時代遅れの……大正時代のような蝙蝠型のコートから白い袖をのぞかせて、糸目の男は口を袖で抑えながら男は俺を見て小首をかしげた。
「お前さんからは罪と嘘の匂いがするねえ。会計殿。」
おっとりと落ち着いて、細い目はどこを見ているかわからない。しかし彼の言葉は俺にぐさりと刺さった。相手が妙に膨らんで見える。大きな存在に威圧されているかのような。
「…………え?」
喉から張り付いて出てきたかすれた声を笑うみたいに、男はねっとりと言った。
「嘘つきは泥棒の始まりなんですよぉ。悪い子供だね」
にんまりと穏やかに笑う男が、無性に怖かった。何も考えることができない。じりと、一歩下がると次の瞬間。
「いい加減にしろ。」
風紀委員長さんが俺とその糸目の男の間に割り込んだ。視界が一瞬遮られて、呼吸がもとのペースに戻る。風紀委員長さんは背中しか見えなくて、どんな顔をしているかはわからなかった。
すると、今度は人懐っこそうな顔になった糸目がまた小首をかしげる。
「すまなかったよ。彰寧。儂だって会計殿と仲良くなりたかったのさ。だって初めましてでございましょう?」
一歩踏み出して、風紀委員長さんに退いてほしいというポーズをとったが、委員長さんは全く動かなかった。
「約束は守れ。」
「御意御意。秘中の子猫をこれ以上刺激はせぬよ。」
そうして風紀委員長さんの壁はわずかに剥がれた。
「お初お目にかかります。儂は緒環神楽耶。広報委員長を任ぜられた者。以後お見知りおきを。」
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