雨彩カプチーノ

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 その日からラテアートの特訓の日々が始まった。  部活をしていない私は、高校の授業が終わると一目散にカフェに向かった。 友達はそんな私の様子を、高校最後の夏を迎える野球部より気迫がヤバい、と笑っていたけれど、私としては夏休み前になんとしてでも、遥希さんとの繋がりが欲しかった。  高校生なんて、社会人の彼からしたら、相手にされないかもしれない。でも、彼が描く絵に自分のラテアートが採用されたらーーー、少しでも彼に近づけるかもしれない、と思った。単純かもしれないけど、今の自分に出来る事はそれぐらいだった。 「ほのちゃん、コップ傾けすぎ。ダメダメ、それじゃあ、上手くいかないよ」 「はい」 「あ〜、ってミルク入れすぎだから」 「あっ! 溢れちゃった………すみません」 シンプルな事ほど難しい。 どこかで聞いたことがある言葉だけれど、本当にそうだと思う。 ハートの形を作るのは技術的にはそこまで難しくない。初心者でも何回かすれば形になる、らしい。しかし、不器用で美術の成績もどん底な私はセンスがないどころか、コップからミルクを溢れさせる始末。  手順は簡単だ。 コーヒーカップにエスプレッソを入れる。 カップを傾け、その中に泡だてたミルクを注ぐ。ミルクの円が浮かんできたら、カップを水平に戻す。そして、ミルクを左右に動かしながら、ハートを作り、最後に2つの楕円の割れ目に沿ってミルクを注いで終わり。  分かっているのに、中々上手く出来ない。  カウンターの中でカプチーノと葛藤していると、ポツポツと雨が格子窓を叩く音がした。嬉しくなって顔を上げる。もしかしたら、遥希さんが来るかもしれない。 「マスター!」 「いや、ほのちゃん手元見て」 私は本日5回目の失敗をしてしまった。
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