第十二話 赤壁の戦い

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 曹操は、襄陽にて戦の準備をし、赤壁へ向かう前、徐庶を呼びつけていた。 「徐庶よ、この度の赤壁の戦いでは、元の主劉備が孫権と共同して攻めてくる予定だ。孫劉同盟を破るには、お主の力が必要なのだが、助言を求める」 「いかがいたしましたか」 「新たな軍師、龐統が我が旗下に入った」 「えぇっ!士元がですか?」 「知っているか。諸葛亮と並ぶ、鬼才の持ち主だというではないか」 「臥龍と鳳雛、諸葛亮が臥龍とすれば、鳳雛は龐統の事です」 「その、龐統が、この曹操に連環策を進言してきた。で、親交あるお主の意見も聞いておかねばと思ったが、どうだ」 「はい、今現在、我軍は、疫病が増えてきております。また、船での行軍は不慣れ。大軍とは言えど、かなり士気が下がります。良い策でしょう」 「うむ。お主、この戦、参戦せぬか」 「いえ、私は、劉備軍に仕えていた身、周囲に疑いの目もある故、この度はご遠慮願います。西陵では、馬騰の動きが穏やかでないとの噂もあり、そちらを対処しようと考えておりますが」 「うむ、分かった。才人龐統も居ることだ、徐庶よ、馬騰より長安を守るため向かうのだ」 「御意」  徐庶は、龐統は偽の仕官だという事に気づき、策も魏を攻略するための諸葛亮のものだと考えた。そのため、なるべく、戦の近くから遠ざかろうとし、長安へと向かう決心をしたのだった。  その夜、赤壁では、曹操軍五十万と孫劉同盟軍四万の水軍が、赤壁の前で対峙していた。曹操軍は、徐庶の言う通り、南方の進軍による疫病と船での長旅で船酔いになる将兵が続出、大軍とは言え全体の指揮は下がっていた。新たな軍師龐統の助言で、連環策を用い、馬でも船の上を行き来できるよう繋いだ。曹操は、船酔いを鎮め、船同士の行き来ができ、病人への対応をできると絶賛していた。その時、程昱等の文官が、風向きを心配していた。 「曹操様、この度の対峙する方角は、風により火計を喰らうと心配です」 「うむ、蔡瑁等に聞いたところ、心配ないというのだ、大丈夫だ」 蔡瑁や張允等の荊州将が、冬に東南の風が吹くことは無いと言ったため、曹操は、信じることにした。しかし、昼過ぎから、風の状況が変化し、程昱は心配になり曹操に進言した。 「殿、風向きが変わりました。このままでは、火攻めをされると、我が軍は壊滅します」  この頃、すでに龐統は、船を降り逃げ出し、呉へと身を隠していた。曹操は、まだそれに気づかずにいた。 「今日の今日に風が変わって、何ができるのだ。もう、黄蓋が降り、連環策をとっている我が軍が攻め入るだけだ。周瑜も、準備はできておらぬ」  遠方より、船が数隻寄ってきた。先ずは、黄蓋が投降すると見せかける計略である。よく見ると、黄蓋が立っている様子ではなく、藁人形が立てられている。曹操は、不思議に思った。 「ぬっ!謀られたか!皆の者、火攻めがくるぞ!」  全て悟った曹操は、皆に号令を出したが、すでに遅かった。藁の中から、黄蓋が呉兵と共に出て、 「油と火矢を放てぇーー!」  連環した曹操軍の大船は、前方が瞬く間に火中に包まれた。曹操は、腰を抜かし動けなくなったが側近に連れられ、後へと逃げた。 「龐統、軍師龐統はおるかー!」 「い、いませぬ!」 「奴にも謀られたか……」 項垂れる曹操は、退却用の小舟で烏林河川敷へと逃げた。火に包まれた船から、兵士が次々と飛び降りていく。呉兵は、その兵に槍を突きつけ、降伏か死かを問うだけだった。  周瑜は、赤壁の河口近くから、戦の様子を見ていた。燃え上がり、赤く染まる長江、大きな火の回りを取り囲むような呉の船。周瑜は、勝利を確信した。 「甘寧、凌統、朱治に伝言だ。烏林に曹操は逃げ込む。魏軍を全力で攻撃せよ」  燃え盛る船を切り離し、烏林へと船を急がせた魏軍は、曹操を陸へと逃がした。五十万もあった兵団は、今や数千かそれ以下である。 「孫権、劉備め、許せぬ!」  曹操は、怒りで割れるように痛んだ頭を抱えながら、馬に乗り、曹仁が待つ江陵へと向かおうとした。その時、北と南の林の中から、銅鑼の音が。
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