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「星奈」 影に呼びかけられて、身がまえた。 聞き覚えのある声。この声って、もしかして。 目が慣れてきて、影の人の顔が見える。 ーー流星だった。 どうして流星がここに? さっきは中庭にいたのに。私が迷っている間に、ここに来たのだろうか。混乱した頭で必死に考える。 ずっとずっと、会いたかった人。 そして入学してからは、話したいと思っているのに、近づけなかった人。 だけど、まだ……。心の準備全然できてない! 思わず逃げようとすると、「待って!」と腕をつかまれた。 ぐいっと引っ張られて、顔が近づく。 澄んだ目にひきこまれる。 「あ、あの……」 「やっぱり、星奈。高橋星奈だよね?」 そんな風に近くで見つめられたら。 緊張して足が動かない。 もう逃げられなかった。 「……久しぶり」 「久しぶり、だな」 流星は懐かしそうな、何か言いたそうな表情になった。 「髪、伸びたんだね」 流星は私をつかんでいた腕を離すと、今度はその手で髪に触る。 大事なものに触るように、そっと。 そんなことされたら、心臓がはれつしそう。 何か、言わなくちゃ。 するり、と流星の指から私の髪が流れ落ちた。 「あ、あの頃も、長かったよ。三つ編みしてたから、今より短く見えてたのかもしれないけど、さ」 やっとのことで話したのに、流星は何も答えない。 ただ、じっと私を見ている。 どうしよう、この雰囲気。 もう耐えられそうになかった。
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