プロローグ

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プロローグ

当たり前に、また会えるって思ってた。 誤解を解けないまま入学した中学校に、流星(りゅうせい)はいなかった。 その理由を、私は同級生たちのうわさ話で知る。 「ねぇ、流星くんって私立の中高一貫校に行ったんだって」 「えー、ショック。私も受験すればよかった。あ、高校から入ろうかな」 「あそこ難しいんだよ、うちらじゃ無理でしょ」 そんな会話が聞こえてきて、やっと流星が別の学校へ行ったことを知った。 まだ中学に入学したばかりだったけど、そのときに決めた。私も高校受験してその学校に行こう。 どれだけ難しくても頑張る。 そして。今度こそ自信を持って隣にいられるように、可愛くならなくちゃ。 私は目を閉じて流星との出会いを思い返す。 小学生のまだ幼いときだった。 「名前」 忘れもしない、最初の一言。 「え?」 「名前、星がつくんだね」 「あ、うん。星奈(せいな)っていうの」 答えると、流星は優しく笑った。 「俺も。名前に星つく」 その笑顔に、一瞬でひかれた。 「流星っていうんだ。よろしく」 その名前のとおり、輝いていた。 流れ星にみとれるみたいに、私はぼうっと流星を見つめていた。 それなのに。 まさか、あの一言を流星に聞かれちゃうなんて思わなかった。 流星と話すようになって数年、六年生のとき。放課後の教室で、私はクラスの女の子に囲まれた。 「あんた、好きな人いるでしょ」 「好きな人? いないよ」 それは、自分を守るためのウソだった。 「本当に? でも、なんか流星くんと仲良いじゃん、名前で呼びあってるの聞いたよ」 私をにらみつける女の子たちの目。敵にするのはこわかった。だから……。 「本当だって。私は、流星のことなんて好きじゃない」 カタン、と音がして教室のうしろを振り返る。 「あー、そっか」 流星はほほ笑んでいたけど、いつもと違う顔だった。あの流れ星みたいに、キラリとした私の好きな笑顔じゃなくて。 なんだか泣きそうな顔。 それが、流星の顔をちゃんと見た最後になってしまった。 とびきりの笑顔も、真剣な顔も、たくさん見てきたはずなのに。 記憶に残っているのは、あの哀しそうな笑顔。 あれから話さないまま、小学校を卒業して、中学校は別々……。 だけど、 絶対、また会いに行くから。 今度はちゃんと好きって言うから。 まってて……。
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